ちわっす、ナカキタだす。
 今回ご紹介するのは、ハンガリー人のジュディット先生。この夏、ご主人の仕事の都合で日本を去られます。そのお別 れパーティと、それ以前に参加した教室での様子を少しだけ交えて、ジュディットの思い出を振り返ってみます。


第十一回 さよなら、ジュディットとハンガリー料理 

 
 



ワールドカップも佳境に入った、6月のとある日曜日。本牧のとあるレストランに、これまで何度もNikiのキッチンスクールに参加してくれている8人の生徒さん達が集まった。
 今日のスペシャルゲストは、ジュディット一家……ジュディット先生と、ミック・ジャガーをふっくらさせたようなカッコイイご主人、そして、6歳にしてベジタリアン、ちょっと不思議ちゃんの一人娘、リリー。彼らは、この夏、日本を発ってスウェーデンに移り住むのだ。
 これまでNikiの教室では、世界各国から来た先生が登場し、そして去っていった。一人ひとりを思いだしてみると、いろんなお国柄、いろんな個性、そしていろんな味が心に甦ってきて、本当に感慨深い。


 ナカキタは、ジュディット教室は最後の二回に参加した。ザワークラウトを使った挽肉料理や手作りパスタ、チーズ入りの菓子パンなど、周辺のいろんな国の文化が少しずつ交じり合った、伝統的なハンガリーの家庭料理。エスニックが圧倒的に多い最近のNikiの教室では、多少なりとも馴染みのある中欧の料理は、逆に新鮮に感じた。


   でも、それより何より、ジュディット先生のパーソナリティが好きだったな。 なんかね、教えるのがとても上手だった。料理のことも、ハンガリーのことも。とてもわかりやすい英語で、丁寧にせつめいしてくれた。
 最初にお家に通されたとき、パンと塩とワインをひと舐めずつ出されて、
「ハンガリー王国の宮廷では、お客人に歓迎の心を表すために、この三つのアイテムを必ず最初に出したのよ」などと教えてくれたことを思い出す。
 逆に日本のこともいっぱい学んでくれた。驚いたのは、四年間の滞在中にお花の師範になってしまったこと。次の居留地、スウェーデンに行ったら、今度はお花を教えるんだろうな。
「それが何であっても、教えることが好きなの」 って、言ってたなあ、そう言えば。


 それから、家族も個性的だった。シャイでちょっと気難しいリリーちゃんは、最初の教室のときに連れて行った、うちの息子U坊と、なかなかうち解けてくれなかった。でも、最後の頃ようやく、パパを交えて3人で、なわとびしたり、綱引きしたり、笑顔を見せるようになって、ちょっと安心した。
 で、このミック・ジャガー似のパパ、彼がなかなかいい味出してるんだ。とにかく、おもしろいの。はじめて会ったとき、
「何のお仕事をしているの?」と聞いたナカキタに、涼しい顔をして
「鉛筆を作ってるんだ」と、のたまった。
「鉛筆?」
「そう、僕の仕事は中でもいちばん重要で、一本一本鉛筆を削って、芯をとがらしていくんだ(と、ここで実際に鉛筆を取り出して、芯をトキトキにするやり方を身振り手振りで熱っぽく説明)。ほら、ここが難しいんだ」
 ……信じたぞ、ナカキタは。  本当は、コンピュータエンジニアだったのでした。ハンガリアン・ジョークは難しいや。


 会食も終わりに近づいたとき、パーティの参加者はプレゼントを手渡した。和風の素材を使ったキッチン小物や雑貨など、それぞれ悩んで選んだんだろうな、というプレゼントの数々。中でも目を引いたのは、いつも教室に参加しているレイさんの、手作りアルバムだ。これはすごかった。きれいにレイアウトされた、レッスン風景の写 真集。眺めているうちに、たった二回しか参加しなかったのに、懐かしさがこみ上げてきた。ジュディット先生もこれを見て、一生懸命頑張ったレッスンのこと、私たちのこと、Nikiのこと、日本のこと、きっといろいろ思い出すんだろうな。
 ジュディット先生からは、一人ひとりにお菓子の包みが配られた。この忙しい中、当日焼き上げたハンガリーのパンとお菓子。まだ温かかった。


 そうこうしているうちに、お別れパーティもいよいよお開きに。
 ハンガリーでは、人差し指に中指を重ねて相手に指し示すのが、「Good Luck!」のサインなんだって。 ん? なんか懐かしいぞ、この指?……と思ったら、ナカキタの故郷の「えんがちょ切った!」のサインと同じだ〜。わー、ところ変わればスゴイ違いだ。だけど、なんだね。そういうちょっとしたカルチャーギャップを笑いあえるのも、国際交流の醍醐味のひとつなのかもしれない。
 で、「えんがちょ」ってどう説明すればいいんだ?


 ともあれ、右手で「Good Luck」マークを作りながら……さよなら、ジュディット。楽しくて美味しい料理教室を、本当にありがとう。

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そんなわけで、今回紹介するのは、ナカキタが最後に出たジュディットの教室で教えてもらった、ハンガリーのリンゴスープ。温めて良し、冷やして良しの甘酸っぱい逸品だ。日本的な感覚だと、デザートのように思えるけど、これはれっきとしたスープ。前菜のひとつとして、メインの前にいただくものらしい。
 柔らかく煮たリンゴを、ピューレ状にして味を調えるだけの、シンプルな料理だけど、さっぱりと美味しくて、メインディッシュが進むこと請け合いだ。とっても簡単だから、ぜひトライしてみて! 特に肉料理と相性がいいみたい。  もちろん、おやつとして単独に食べてもイケル。


 ジュディットからは、もっといろいろ習ったんだけど、とりあえず今回はこれにて。また回をあらためて、ザワークラウトを使った挽肉料理とか、とっておきのレシピを紹介するので、お楽しみに。


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本日のレシピ

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◆リンゴのスープ シナモン添え(Apple soup with cinnamon)
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(材料)
皮を剥いたリンゴ 500g 
ブラウンシュガー100g 
レーズン、レモンの皮各50g
卵黄1コ分 
塩少々 
シナモンパウダー小1 
クローブの実5粒

(作り方)
1.  鍋に5ミリくらいの厚さにカットしたリンゴと、レモンの皮、クローブ、シナモンを入れ、かぶるくらいの水を加える。ふたをして、10〜15分煮る。

2. その間に、卵黄をホイップしておく。

3. 1が煮上がったら、クローブを取り出してから、ミキサーにかけて、ピューレ状にする。

4. 3を鍋にもどし、とろ火であたためながら、味を見てブラウンシュガーを加えていく。塩をひとつまみ、2の卵黄をゆっくりと加え、よくかき混ぜる。

5. レーズンを加えたら、火から下ろし、湯煎にして2、3分かき混ぜる。トロリとしたらできあがり。 *使うリンゴはどんな種類でもOK。リンゴの風味がそのまま出るので、好みのものをいろいろ試してみるのもいいでしょう。


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エッセイストの紹介
中北久美子 ナカキタクミコ
(プロフィール)
中北久美子 

ナカキタクミコ 名古屋の情報雑誌月刊「KELLY」編集から編集 デスクを経てフリーに。以後、雑誌・広告・社内報・官公庁の出版物・ゴース ト・ ラジオの構成などで企画・取材・執筆を担当。結婚後、神戸、金沢、富山と拠 点を 移しながらその土地の取材物を中心にライターを継続。今後は、女性のライフ スタ イルに関する記事を書いていきたいと考えている。 現在、横浜在住。好きなものは温泉、お散歩、お茶、古い建物、犬、60年代 のR &B、70年代のブリティッシュロック、80年代のスィートレゲエ、「館」のつ く場 所(水族館・博物館etc・・・)、浮世絵、特撮ヒーロー、伝奇小説、南の海、そ して一 人息子とのおしゃべり、などなど。

「よみたい!ネット」に「横浜お散歩マニア」連載中 http://www.yomitai.net/