待ち合わせの場所で、二人の生徒さんと一緒にいた、サリーを身にまとった小柄 な女性。それが先生だった。額に赤いビンディ。インドの女性と聞いて、すぐに思い浮かべるスタイルだ。
ご出身は、Vishakhapatnam(ヴィシャカパトゥナム、という読みでいいと思うけど)。地図で確認すると、大きなインド亜大陸の南東の、海に面
した街みたい 。同 じインドでも、前に教室に行ったクク先生は、ベンガルの出。広いインドでは 、南と北では、文化や歴史も、そこに住む人種も、全く違う。
もちろん、料理だって違う。考えてみたら、当たり前かもしれない。北はヒマラヤから続く高地、南は亜熱帯の熱い土地。食べているものだって違っていて当然なのだ。でも、それだけじゃない。カースト制度の残るインドでは、属するカーストによっても、その生活はまるで変わってくる。敬虔なヒンドゥー教徒で、高いカーストに属するラサ先生は、完全なベジタリアンなにのだそうだ。
私たちがインド料理といってすぐに思い浮かべるカレーには、当たり前のようにチキンやビーフ、マトン、それから魚などが入っている。野菜だけのものもあるけれど、なんとなく、あのスパイシーで薫り高い料理の中には、動物性タンパク
質が入っていて欲しい、と思うのはナカキタだけだろうか・・・。 それだけに、ベジタリアンのインド料理っていうのはいったいどういうものか、
期待は高まる。
キッチンに入ったラサ先生は、いきなりオイルを表面に塗ってツヤツヤに拭きあげたナスを、コンロで直火にかけて黒く焦がし始めた。わー、大胆な・・。
そうしている間に、粉を水と少々の油、それと塩だけで練って、ナンの外側を作 る。そこに、マッシュしたジャガイモを包み込んで、一緒にのすのだ。やり方とし
ては、バターを強力粉に織り込むパイのようなやり方だけど、中身はポテト。 はやくも、ポテトのほっこりとしたいい香りが漂ってくる。コンロのナスも、香ば
しいを発しはじめている。
火から下ろしたナスは水に取り、皮をむいてマッシュにする。これを、野菜 を鍋で炒め、トマトを加えて煮込んだ中に、最後に入れるのだ。簡単な、世界中で
作られている野菜シチューと同じ、ひたすら煮込む料理。だけど、コリアンダー、 ニン ニク、ショウガ、青唐辛子といった、インドカレーのベースたちが、鍋の中をたちまちインドに変えていく!
野菜を煮込んでいる間に、ジャガイモ入りナンを形作っていく。
手で堅さを確かめながら、混ぜていくうちに、少しずつタネがまとまっていく 。ここに、クミン、コリアンダー、ガラムマサラの、インドスパイス黄金トリオが入る。
ジャガイモも入りのタネを、薄く、クレープのように丸くのばす。なかなか手間のかかる作業だけど、 ラサ先生は、これを毎朝朝食で出すのだそうだ。
「前の晩に作って、それを焼くだけだからそれほど大変ではないのよ」
パンをトースターに入れて、牛乳をつぐだけで、「だるー」とのたまう、どっかの主婦に聞かせたい台詞だよ。ナカキタだけど。
ふと、キッチンの入り口を見ると、棚の上に銀製のヒンドゥーの神様たちが 祭られた一角がある。黄色い花と、香炉が備えられている。
「昨日は、ガナパティのお祭りだったの」
と、ラサ先生。ガナパティというのは、像の姿をしたヒンドゥーの神様の一人 だ。
ナンを薄くのばしながら、ラサ先生は、ヒンドゥー教の神様のことを話す。
「インドには、数え切れないほどの神様がいて、みんなそれぞれお祭りの日があるの。そして、みんなそれぞれ、ストーリーを持っている。私たちは、子どもの頃から、そのお話を毎晩1つずつ、聞かされながら大きくなったのよ」
「では、先生もまた、お子さんたちにお話しして聞かせてるんですか」
「そうよ。そして、大人になるまでにはみんな、何百といる神様のほとんどのお話しを知っているようになる。で、彼らがいずれ子どもを持ったら、またそれを聞かせて育てるのよ」
なんだか、その昔、私たちの国でもそういう習慣があったような。そうなんだ。 神様がたくさんいるという点で、ラサ先生と私たちは遠い祖先が陸続きなのだ
。
ラサ先生は、こちらに来る前にアメリカで暮らしていた。確かに、英語が通 じる 分、日本より生活は便利だった。
「だけど、文化が違いすぎて、とても生活には馴染めなかったな。その点、日本は、 何か通じるものがある気がするの。私たちの生活を理解してくれる人が多いしね」
「それはきっと、ずっと昔から、日本はインドの文化の流れを受けているからかもしれないですね」
それに日本人はカレーが大好きだし!
Nikiのキッチンスクールで毎回思うのは、先生たちがみな、宗教的なバックボーンを大切にしながら、異国の地で暮らしている、ということ。私たちは、そのほんのとば口をのぞかせてもらっているのだけど、それでも、食文化と密接に結びついた、豊かな精神生活に圧倒される。ラサ先生のベジタリアン料理は、その中でもとりわけ、深く文化的背景とつながっているように思えた。
ひとことでカレーと言っても、本当にいろいろあるんだね。
できあがったナスとトマトの煮込み料理は、ナスのとろみが効いていて、スパイシーというよりは、うま味が勝っているようなマイルドな味だった。たぶん、
動物 性タンパク質が加わっていたら、この味は出てこないだろう。ベジタリアン料理の豊かな底力を見たような気がした。
これを、ナンにつけて食べるのだ。ラサ先生は、上手に右手だけでナンですくい 取って口に運ぶ。その食べ姿の美しいこと。とてもそんな芸当はできない私たちは、スプーンを借りていただいた。
一緒にいただいたマンゴーラッシーの酸味もほどよく、充実したお食事タイムを 締めくくってくれた。 この料理は、たぶん、自宅で比較的簡単に再現できると思う。エキゾチックだけど、懐かしい味。それは、きっと煮込んだ野菜のうま味が、心のどこかを刺激するからかもしれない。
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本日のレシピ
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◆Aloo Paratha アルー・パラータ 〜マッシュポテト入りナ ン〜
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(材料)
じゃがいも中2コ
全粒粉2カップ
コリアンダー小さじ1
クミンパウダー小 さじ1
ガラムマサラ小さじ1
オリーブオイル小さじ1
塩小さじ1
水150cc〜200c c
(作り方)
1. 全粒粉はふるってボウルに入れ、オリーブオイルと塩を加える。
2. 水を少しづつ加えていき、全体がまとまるようになったら、よくこねて均一 なド ゥーにする。濡れフキンをかぶせて15分ほど置いておく。
3. じゃがいもは茹でて皮をむき、熱いうちにマッシュして冷ましておく。※冷 めて からマッシュすると粘り気が出てしまうそうです。
4. マッシュしたじゃがいもにコリアンダーパウダー、クミンパウダー、ガラム マサ ラを加えてよく混ぜる。2cmくらいのボール状に丸めておく。
5. ドゥーも均等に分けてボウル状に丸める。
6. 分けたドゥーを1つ取り出し、小麦粉をまぶして、台にも打粉をし、めん棒 で直 径7〜8cmくらいに延ばす。ジャガイモのボウルを1つ真ん中に置いて、ドゥ
ーで 包みこみ、さらに直径1cmに円く薄く均一に延ばす。
7. フライパン(パンケーキ用ハパン)を中火にかけ、生地を入れてまず3分ほど 片面を 焼く。表面の色が変わってきたら裏返し、焼き面にオリーブオイル「(分量
外) 少量を塗り、少し火を弱める。裏面にも焼き色がついてきたらもう一度返してオリ ーブ オイルを塗る。そのまま弱火で、こんがりきつね色に焼き上げる。
5 1のジャガイモを敷いた鍋に4を置いていく。鍋の外側から壁に沿うように置き、次第に内側に詰めるように積み上げていく。
8. 平バスケット(トレイ)にアルミホイルを敷いた上に重ね置いてテーブルへ。 温か いうちにいただきましょう
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◆Brinjal Bhartha
ブリンジャル・バータ 〜なすとトマトのインド風〜
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(材料)
なす中3コ(米なすを使う場合は1コ)
たまねぎ大1コ →5mm角位にカット
ニ ンニク3片 (みじん切りにする)
ショウガcm (みじん切りにする)
青 唐辛 子1〜3本(好みで加減) →小口切り
トマト中2コ cm角位のダイス状に
ク ミンシード 小さじ1くらい
ピーナッツ大さじ1〜(皮付き)
グリーンピース 大さじ2〜(冷凍を使用)
オリーブオイル適宜
*1:レッドチリよりグリーンチリの方が風味が良いとのこと。この日は辛さ控え め に1/2本使用。
-- besides -- ☆ "brinjal" :○印なす ☆ "bhatha" :○印マッシュすること。
(作り方)
1. なす全体にオリーブオイルを薄く塗り、ガスの直火に当てて焼く。時々回し て方 向を変えながら、皮が黒く焦げるまで焼く。
2. 火から下ろして、水を張ったボウルに入れて粗熱をとり、皮をきれいにむい てヘ タ部分も外し、果肉をマッシュしておく。
3. 鍋を熱してオリーブオイルを多めに入れ、最初にクミンシードを入れて香り を出 し、次にピーナッツを入れてきつね色になるまで炒め、ニンニク、ショウガを
加え、 少し炒めた後たまねぎ、青唐辛子を加える。たまねぎが軽く色づくまで炒める 。
4. トマトとグリンピースを加えて全体を混ぜ合わせ、トマトを軽くつぶしなが ら炒 めた後、ふたをしてトマトが柔らかく煮くずれてくるまで煮る。
5. マッシュしたなすを加えて全体を良く混ぜ、軽く煮た後,塩で味を整える。 コリ アンダーの葉(香菜)を青みに飾ってテーブルへ。
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◆Mango Lassi 〜マンゴー・ラッシー〜
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(材料)
マンゴー・ピューレ 1カップ
ヨーグルト 1カップ
牛乳適宜
砂糖適宜
クミン1つまみ
氷 〜
*1:クミンシードをローストし、乳鉢などで砕いたものを用意しておく。パウ ダーを 使うより香りの良さが際立ちます。
*2:牛乳の量で好みの濃度に調節を。濃いものが好きならば牛乳を入れなくて も。
(作り方)
マンゴー・ピューレ、ヨーグルト、牛乳、砂糖を氷とともにミキサーにかけて 全体に よく混ぜ合わせる。 氷を入れたグラスに注いで、ロースト・クミンをトッピング。
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