第二十八回 「インドネシアの国民食」  

              とらお



 

インドネシアというと日本人にとってはバリのイメージが強い。
だから、インドネシア=ヒンズー教文化圏だと思っている人も多い。
でも、じつはヒンズー教徒が多いのはインドネシアの中でもバリだけで、
国全体としてはイスラム教徒が圧倒的に多い。
当然のことながら、バリにはイスラム教のインドネシア人も住んでいる。
バリではイスラム教徒はひと握りだけど、インドネシアではヒンズー教徒がひと握り。

で、ややこしいのが食べ物。
バリ人は豚なくして生きていけないほど豚肉が好き。
結婚式などのお祭りごとには豚の丸焼き(バビグリン)が欠かせないし、
バリではあっちこっちにこのバビグリン専門の屋台や食堂がある。
ところが、イスラム教徒は豚肉を一切口にしない。
それどころか、厳格なイスラム教徒は、豚肉を使った料理でなくても、
豚肉を調理するのと同じ包丁や鍋で作った料理もダメという人もいる。
食べ物の事情から見ると、イスラム教のインドネシア人と
ヒンズー教のバリ人は対極にある。うーん、複雑。
だから、バリでは現地の人を食事に誘うときは、相手の料理の好みや
好き嫌いがあるかどうかということ以前に、その人の宗教が
何であるかを知る必要がある。

といっても、いきなり「宗教はなに?」とか「イスラム教?」とかと尋ねるのは、
どうにもぶしつけな感じがして気が引ける。
でも、無闇に中華料理屋なんかに誘ってしまったら、相手は何も食べられない
ってこともありえるので、気にしないわけにはいかない。
そんなときは、「ビサ マカン アパ サジャ?」(何でも食べられる?)と訊く。
料理や食材の好き嫌いを訊きつつ、宗教についても確認できる。

もしくは、アヤムゴレンの店に行く。
アヤムは鳥肉、ゴレンは揚げる。つまり、鳥の唐揚げのこと。
インドネシア人は、イスラム教徒も、ヒンズー教徒も、キリスト教徒も、仏教徒も、
なぜかほとんどもれなくアヤムゴレンが好き。
バリのヒンズー教は、インドのそれにくらべてゆるいので、牛肉を食べる人も
いるけれど、あえてすすめるのも悪いので鶏肉が無難だ。
というか、アヤムゴレンは複雑なインドネシアにおける
フレンドリーな国民食のひとつといえる。

9月のグレース先生のクラスのメイン料理も、このアヤムゴレン。
しかし、「な〜んだ、トリカラかよ」などとナメてはいけない。
インドネシアの鳥の唐揚げは奥が深い。
唐揚げ粉をつけて揚げるだけ、というのとはワケが違う。
じっくり煮込んで味を染み込ませてから素揚げする。

とか、エラそうに書いてますが、じつはグレース先生のクラスで
アヤムゴレンをやるというので調べてみるまで、
まさか揚げる前に煮込んでるとは、知りませんでした。汗。
しかも、実際にグレース先生が作るのを見ていると、ほとんど煮物を作ってる感じ。
じつに新鮮な驚きでした。汗・汗・汗。
煮たモノをそのまま食べてもおいしそうなのに、それをわざわざ油で揚げる。
いやいやまったく手がかかりますわ。
それでも見た目は、さり気なくただ素揚げしただけの鳥肉。
バリでアヤムゴレン専門店に行くたびに、「ここんちは楽チンな商売でいいなー」
と思って見てたけど、大間違いだったようです。反省。

同じく9月のクラスのメニューにあるガドガド(茹でた野菜に
ピーナッツソースをかけたインドネシア風サラダ)のソースも、
グレース先生、ピーナッツを挽くところから作ってくれました。
そしてそのソースにも、日本人には思いつかないような
ちょっとした工夫があったりして.....。
インドネシア料理、侮れないッス。

ちなみに、グレース先生は中国系インドネシア人でキリスト教徒。
豚でも牛でも食べるので、料理のレパートリーは幅広いはず。
今後のクラスも楽しみだぁ〜。


サヤ スカ マサカン インドネシア!(私はインドネシア料理が好き!)



<テーブル>
グリーンを基調にしたおしゃれなテーブルセッティングもお見事。バナナの葉を模したデザインの皿がインドネシアらしい。


<煮込んでる様子>
まるで煮込み料理。これを揚げるとアヤムゴレンに。完成写真、ありません。あまりにウマそうで撮影するの忘れました。SORRY!


<料理>
キャベツとジャガイモともやしの茹でたものと、揚げたテンペ、厚揚げなどを混ぜ合わせ、ピーナッツソースをかけたガドガド


エッセイストの紹介
とらお氏


Profile:

メンズ雑誌中心の編集人。現在Free&Easyでレシピを執筆。