第四十八回 「私のキッチンには国境がない -メリンダ- 」
中北 久美子
Niki’s Kitchenのみなさま、こんにちは。
とってもお久しぶりにこのサイトに文章を書くことになりました、フリーライターの中北です。私のことをご存じない方も多いかと思いますので、少し自己紹介させてください。
もうかれこれ7年ほど前、Niki’sの教室が横浜根岸の米軍住宅の中で細々とスタートした当初に、サイトにお料理教室の体験レポート&エッセイを書かせていただいていました。そのころからNikiの教室には様々なルーツを持つ外国人の先生方が、バラエティに富んだレシピを惜しげもなく伝授してくれました。
今は横浜から遠く離れた北陸でライターの仕事を続けながら、時々あのころに教えてもらったドルマ(もどき)やインドカレー(だいぶアレンジ)を作ってみたりしています。今回、再びNiki’sのサイトで講師の先生方のプロフィールを紹介しがてら、そのメニューの魅力をお伝えすることになりました。
さて、今回は、Nikiの教室が誇るワインのスペシャリスト、メリンダからお話を聞きました。
料理を作るとき、多くの人は「自分が属する食文化」「育ってきた食環境」をベースに、生活の時々に出会う「個人的な食の嗜好」を加えながらレパートリーを広げていきます。メリンダの場合、彼女のレシピを支えるこれら3つの要素は、とても魅力的な形でブレンドされています。
彼女はアメリカの南部ルイジアナに育った中国系アメリカ人。ご両親はルイジアナ料理の店を経営しています。世界一食にこだわる中国系の血を引き、「サザンホスピタリティ(アメリカ南部の温かなもてなし)」の環境で育ったメリンダは、それだけですでにすばらしい素地に恵まれていました。
そして大人になって出会ったもう一つの要素。それがワインでした。 もともとご両親もワイン好き。彼女自身はバークレイで学生生活を送る中でワインに出会い(カリフォルニアにはリーズナブルで美味しいワインがたくさんあるんですよね)、その後日本にきて本格的にワインの知識を広げることになりました。そうして気づいたのは、ワインはただ美味しいアルコールというだけではなく、ブドウを育んできた土の歴史や、それを熟成させた文化、味を作り上げシャトーを守ってきた人々の脈々と続く営みを饒舌に語る物語である、ということ。ワインの楽しみは、その物語をひもとき、味わうことなのです。
日本にきて、メリンダはワインと日本酒の中に多くの共通点を見いだしました。今では日本酒はワインと並んでメリンダのライフワークとなっています。
メリンダのクラスでは、ワインと日本酒をメインに、それらと最高に相性のよい料理を合わせて習います。ワインも食材も比較的手に入りやすいものを選び、レシピはできるだけシンプルかつ美味なものを考案しています。生徒さんが家でもメニューを再現してほしいと考えているからです。実はこれがなかなか難しいのですが、彼女にとっても腕の見せ所だったりします。
ルイジアナで育ったメリンダは、日本に来る前にサンフランシスコ、ニューヨーク、ロンドンと移り住みました。様々な文化的バックグラウンドを持つ人々との出会いで育んだ、異文化を違和感なく受け入れる柔軟な心は、世界中の料理に対する好奇心を育みました。彼女曰く、
「だから私のキッチンには国境がないのです」。 イタリアンもエチオピア料理もスペイン料理も、その他世界中のレシピはすべて、キッチンの中で平等に「ワイン(あるいはお酒)によく合う美味しい料理」としてメリンダ風にアレンジされます。ワインというフィルターを通すと、世界中の味覚が思わぬところでつながり、交わり、仲良く手をつなぐように見えるから不思議です。
最後に、メリンダはこう付け加えました。 「ワインやお酒は組み合わせがすべて。世界一高価なワインも、間違った料理と組み合わせたら台無しになる。逆に安いワインでも最高にマッチする料理に合わせれば、それはとても美味しいごちそうになるの。私の教室では、この組み合わせを追究しています。
でも、これにもう一つ、とても大切な要素を付け加えなくてはなりません。それは、食卓を囲む楽しい会話、明るい笑顔、つまり親しい者たちが醸し出す温かい雰囲気。これが欠けたら、どんな立派なメニューも美味しく味わうことはできません」
メリンダのダイニングには、きっといつも笑い声と明るい会話があふれていることでしょう。それこそがワインと料理のベストマッチを、さらに完璧に仕上げる最後のスパイスだから。
現在、フリーのライターとして活躍している『彼女』は、いつか日本に住むアメリカ南部出身の中国系アメリカ人を主人公に物語を書きたいという夢を持っています。きっとその本の中にも、ふんだんに彼女の愛するワインと日本酒、そして美味しい料理が登場することでしょう。
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