シリアは、地中海に一部面した中東の国だ。レバノン、トルコ、イラク、イス ラエルなど、それぞれに一触即発の火種を抱える国々と国境を接していて、時に
隣国との小競り合いがニュースで流れることもある。
けれども、日本でシリアという国の名を聞くのは、そんな時くらいだ。そこに 住む人々が何を食べ、どんな言葉を使い、どんな生活をしているのか、私たちは例によって何も知らない。
毎度のことながら、これまでまったくご縁のなかった国と、料理を通 して出合うことができるNIKIの教室に感謝。
ミルナ先生は、笑顔がとてもチャーミングな若いママだった。お家は、クク、ルス両先生と同じ、本牧の外国人専用マンションにある。 入り口で優しそうなご主人と、4歳になるクリスチャン君が迎えてくれた。妹のサ
ンタちゃんはお昼寝中だとか。
それにしてもサンタにクリスチャン。この名前で一目瞭然、ミルナ先生のご一 家は、キリスト教徒だとわかる。
実はナカキタは、シリアはイスラム国家だと思っていた。それで、おそるおそ る(?)そのことについて尋ねてみた。
「シリアは、長い間オスマン・トルコの支配地だったから、モスリムも多いけど 、その後フランスの支配下にあったから、その影響でキリスト教文化も残ってい
るのよ」とのこと。そうなんだ〜。いや、ホントに何も知らなくてゴメンナサイ。
なんでも、言葉の中にはフランス語が多く残り、食生活ではトルコ文化のなご りが多いのだとか。たとえば、ケバブとか、ターキッシュ・コーヒーなんかは、
シリアでもたいへんポピュラーなのだそうだ。
今回は、大船から参加のみどりさんと、保土ヶ谷から参加のひろみさんが一緒 だ。
みどりさんとは以前、根岸の教室で一緒だったことがある。ひろみさんは、会 うのは初めてだけど、今回、ミルナの教室は二度目だとのこと。NIKIのキッチン
にもリピーターが増えたなあ。なんか嬉しい。
作り方は、下のレシピ参照。
実際に作ってみると、どれも決して難しい料理ではない。ただ問題は、これら の中の食材で、日本では手に入りにくいものがいくつかあるという点だ。
たとえば、アワマットのシロップに使うローズウォーター。これは、日本では 売っていないらしい。じゃあたとえば、フルーツエッセンスを加えたらどうだろう。それとも、バラの香りにこだわるのなら、ローズティーで代用できないかしら? あるいは、フルーツ系のリキュールではどうだろう?
ミルナ先生に言わせたら、それではアワマットにならないということで、却下 。だけど、試してみたっていいかもしれない。本場のものとは少し違うけれど、
代用できる香りを探しながら、もしかしたら意外なおいしさに合えるかもしれな い。(だけど、決して化粧品のローズウォーターは使わないこと!)
ミルナ先生の悩みは、こんなふうに、自分の国ではごく普通に手に入っていた食材が、ここではなかなか見つけられないことだと言う。これは、ククもルスも同じだろう。違う文化圏の国で自分たちの暮らしを続けるということは、想像を
絶する苦労があるのだ。
二時間ほどで、三品のシリア料理が出来上がった。
テーブルの上には、今日習ったメニューに加えて、自家製のピクルスとポテト サラダ、ヨーグルトドリンクまで出てきた。なんと大盤振る舞い。
盛りつけのデコレーションが美しいミルナ先生の料理は、テーブルに並ぶと一 層映える。こうしてみると、メニューには野菜が多い。豆やヨーグルトやオリーブオイルなどもふんだんに使って、とてもヘルシーに見える。
「ダイエットにもいいわよ」
ということらしい。
さて、全員が食卓に着き、シリア語の乾杯、「サハテック」と言って、グラスを合わせてから試食に入る。
シリア風リゾット「オゥズィー」は、タイ米独特の風味が香辛料とよく合う。 香ばしいスライスアーモンドが一層食を進める。日本米でもいけるとは言うが、
やはりここはタイ米でいきたい。普通の輸入食材屋で簡単に手に入る。
「アワマット」は、基本的にはドーナッツに近い。だけど、口に入れた途端、 ローズウォーターのフローラルな香りが鼻を抜け、それからシロップでしっとり
した表面に歯が立った途端、サクッとした噛みごたえが返ってきた。
これが、2つの神様に愛でられている味なのか。そうは言っても、食感はなんとも庶民的だ。
今回の料理の中で、おそらく「タブレ」の味は、もっともイメージがわきにくいと思う。
大量のパセリとトマト、それにブルガルを使ったこの中近東風サラダは、これまで経験したことのない、つまり説明することがとても難しい味だ。あえて言葉で表現するとしたら、
「みじん切りで粒状になった、それぞれの野菜の酸味、辛み、苦み、甘みがミン トの香りに引き立てられて口の中でぶつかり、さらに細かく歯ごたえのあるブルガルの粒々が、それらの後味を一つにまとめている」と、まあこんな感じだろうか。
う〜ん、ますますわからないよね? ひとつ言えるのは、この不思議なサラダ 、その後ずいぶん日が過ぎても、時々本当に強烈にフラッシュバックしてくる、ということだ。
この独特の食感と後味に引かれて、きっと私はまた、ミルナ先生の教室に戻っていくことだろう。
シリア語でごちそうさまは、「ダイメイ」。珍しい味に出会えて、知らなかったことがいっぱいわかって、心から満足のいくひとときだった。ダイメイ、ミルナ。そして、サンキュー。これは英語。
ところで。
シリアにはぶどうの葉っぱを使った料理があるのだそうだ。特別なぶどうでなくてもいい。果 実を採った後に残る葉を分けてくれる果樹園はないだろうか。できれば、あまり農薬の心配のないものだといい。もし、ご存じの方がいたら、ぜ
ひNIKIあてに教えてください。
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本日のレシピ
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◆アワマット(シリア風揚げ菓子)
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湯C1/2(水1C 熱湯1/2C、合わせて約50℃)
小麦粉2C
コーンスターチ1/2C
ドライイースト大さじ1
砂糖小さじ1
塩ひとつまみ
揚げ油適量シロップ(砂糖2.5C 水1.5C *ローズウォーター小さじ1
**オレンジブロッサムウォーター小さじ1 レモン汁小さじ1)
*なければ省略可 **なければオレンジエッセンス3〜4滴
1. コーンスターチと小麦粉をボールに混ぜる
2. ドライイーストに砂糖を加え、湯でもどす。
3. 1に2を入れて混ぜ合わせて、ラップをかけて30分ほどねかせる。
4. シロップを作る。砂糖を水に溶き、レモン汁を加えて中火にかける。スプー ンを持ち上げて、ゆっくり落ちるくらいに煮詰まったら、ローズウォーターとオ
レンジブロッサムを加えてすぐに火を止める。
5. 揚げ油を280℃に熱し、発酵した3の生地を二本のティースプーンを使って、 油の中に落とす。一本のスプーンで生地をすくい、もう一本でまるめるように形
を整えながら落とすのがコツ。
6. 3〜4分ほどして、こんがりときつね色になったら油から上げ、すぐに4のシロ ップに2分ほど浸す。表面がしっとりとしたら順にお皿に盛りつける。
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◆オゥズィー(シリアのリゾット)
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バター大さじ2
挽肉250g
冷凍グリーンピース2.5C(250g)
米(タイ米 なければ日本米でも可)2C
水3C
ミックススパイス(ブラックペッパー、ホワイトペッパー、シナモン、クローブ、コリアンダー)
合わせて小さじ1
塩ひとつまみ、
コショウ適量
スライスアーモンド2C
1. 米を洗い上げる
2. バターを大鍋に入れて火にかけ、挽肉を炒める。しっかり火を通 しながら、 ミックススパイスを加える。スパイスは好みで配合も量も調整する。
3. 挽肉がそぼろ状になったら、グリーンピースを加え、塩をふり、ふたをして中火で3分蒸し煮にする。
4. 3に1を入れて、水を加える。よくかき混ぜて塩加減を見る。
5. 沸騰してきたら弱火にして、コショウをたっぷり振り入れて、再びふたをし て30分ほど炊きあげる。
6. スライスアーモンドをオリーブオイルでこんがりと炒めておく。
7. 5が炊きあがったら、ふたをとってかきまぜ、またふたをして5分ほど蒸らす 。
8. 7を大きなボールに詰めて、それを大皿に伏せ、山形に盛りつける。
9. その上に6のスライスアーモンドをびっしり張り付けるように飾る。
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◆タブレ(シリア風サラダ)
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*ブルガル大さじ4(なければ**クスクスでも可)大さじ4
タマネギ1/2個
パセリ大束
トマト4個
オリーブオイル1/4C
レモン汁1.5個分
ドライミント小さ じ1
塩小さじ1
レタス一個分
*ブルガルは、中近東料理には欠かせない、小麦を原料にした細かい粒状の加工穀 物。残念ながら日本では手に入りにくい。
**クスクスは、輸入食品店では手に入りやすい。
クスクスを使うときには、15分 くらい水につけて柔らかくしておくる
1. パセリはみじん切り、トマトはヘタを取り、細かい角切り、タマネギはみじ ん切りにしておく。
2. ブルガルは網にとって水洗いする。
3. 2をボールに移して、タマネギと合わせ、その上に分量の半分くらいの角切り トマトを載せて、野菜の水分を吸収させるようにふやかす。
4. レモン汁を加え、パセリと残りのトマト、ドライミントを順次加えていく。
5. オリーブオイルと塩を振りかけ、全体になじませる。
6. レタスを花のような形に敷いた大皿に、5を載せて盛りつける。食べるときに はレタスで包むようにしていただく。
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