■『二郎は鮨の夢を見る』
2/2(土)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、ユーロスペースほか全国で順次公開。
http://jiro-movie.com/
いまや世界中どこでも食べられる鮨。でも、鮨ほど値段がピンキリな食べ物はありません。
日本国内であれば1皿105円のくるくる回転する鮨でも充分に旨いと感じるけど、その10倍も20倍もの値段の鮨もある。
外国人にはそれほどの違いが不思議なようで、たびたび質問されたりします。美しく飾った創作鮨ならそれぞれに違いはあっても、
同じネタで見た目の変わらないにぎりとなると、その値段の違いを言葉だけで説明するのは不可能に近い。
よほど鮨に精通していなければ、的確に説明するのは難しいでしょう。
映画『二郎は鮨の夢を見る』は、日本を代表するピンな鮨屋「すきやばし次郎」の大将、小野二郎さんのドキュメンタリー。
銀座4丁目の雑居ビルの地下にある店は、カウンターに10人ほどで一杯になる小ささで、
店内に店専用のトイレもない高級店らしからぬ店です。
ゆえに、「ミシュランガイド東京」で最高の三つ星の評価を受けていることが、そんなギャップの驚きも含めて海外では報道されたりもしています。
メニューはおまかせのみで、突出し、20貫の鮨、食後のフルーツが供されて3万1500円也。
その鮨はどれも宝石のように美しいと評されています。
無駄なく、過剰になり過ぎず、必要な仕事を施したネタを、その魚ごとに合う微妙な温度で管理して握る。
シャリも含め絶妙なバランスに仕立てられた鮨は、
「飛行機に乗ってでも食べに来る価値がある」
とフレンチの名匠、ジョエル・ロブションに言わしめたとか。
ちなみに、ロブションはこの店をはじめて訪れた時に、その鮨飯の旨さに感服して、
ネタなしで鮨飯だけの握りをリクエストしたという逸話があります。
監督はデヴィッド・ゲルブ。まだ20代のアメリカ人です。父親がニューヨークのメトロポリタンオペラの総帥だというから、
若くてもこんな高級店で鮨が食べられるお坊ちゃまなんでしょう。
羨ましい。
しかし、いくら金持ちであっても、素材の繊細な旨みを感じ取る能力と、高級店の極上鮨の旨さを感じる才能がなければ、
わざわざ日本の鮨屋のオヤジの映画を撮ろうなどと思わないでしょうから、繊細な味覚も持っているに違いありません。
とにかく、外国人がそこまで日本の鮨に惚れ込んでくれるのは、ありがたいことです。
カメラは、寡黙で無愛想でストイックに丁寧に鮨を握る職人気質な二郎氏の姿を淡々と追って行きます。
昨年末、「すきやばし次郎」は6度目の三つ星を獲得しました。
三つ星がまぐれでなかったことは確かでしょう。
が、どんな店でもそうであるように、否定的な意見もあります。
ホスピタリティがない。コスパが悪い。などなど。
でも、その道一筋の90歳近い職人にお愛想を求めるのは、そもそも間違いにも思えます。
愛想が悪くて接客が苦手でも、その分は味で頑張ろうと努力しているとしたら、それはそれで立派なことだし。
コスパについて言うのなら、客の方にもそのネタを本当に味わえる舌があるのかという資質の問題もあるでしょう。
お金を持っているからといって、味がわからないくせに高い店に行って
「うまくなかった」
なんて言うのはカッコ悪いですよね。もちろん、高いからうまいと盲信するのもよろしくないけど・・・。
ちなみに、この映画、アメリカでは昨年の3月から公開され、スタート時はたった2館での上映だったものの
評判になって上映する劇場も増え、最終的には250万ドル以上の興行収入を達成しているとか。
海外では伝統的なにぎりは「古くさいオールドスタイル」とらえる人が多くなっているとも言われていて、
実際には日本の鮨は岐路に立っているのかもしれないですが。
そうした状況も踏まえたうえで、鮨とは何なのか、日本人として鮨をどうとらえるべきか、
を考えるきっかけとして、この映画は見る価値がある気がします。
一途に鮨のことだけを考えている頑固なオヤジがストイックに鮨を握る姿に、
鮨に限らず、料理に対する見方が変わるかも。
Text/キヌガサマサヨシ
■『二郎は鮨の夢を見る』2/2(土)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、ユーロスペースほか全国で順次公開。
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