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『パパ、遺伝子組み換えってなぁに?』 4月.25日(土)より、渋谷アップリンク、名演小劇場ほか、全国順次公開. 遺伝子組み換え食品についての |
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暑くなると食べたくなるものがあります。インドネシア風の焼きトウモロコシ、ジャグン・バカールです。バリのビーチで寝そべっていると、どこからともなくトウモロコシを焼く匂いが漂ってきます。インドネシアの屋台では炭火であぶったトウモロコシに、マーガリンに塩やニンニクや唐辛子や椰子砂糖などを混ぜたものを塗ってくれます。マーガリンのトランス脂肪酸のことは気になりますが、魅惑的な香りに勝てず、ついつい食べてしまいます。 日本でもその味を再現したくて、いろいろ試してみました。その結果、一番近い感じになるのは、室温で柔らかくしたバターに、スウィートチリソースとニンニクのみじん切り、ほんの少しの醤油を混ぜ、香ばしく焼いたトウモロコシに塗る、という食べ方です。ぜひお試しを。 ところで、そんなトウモロコシが体に悪いとしたらどうします? マーガリンはバターに替えれば不安を回避できますが、トウモロコシそのものに健康を害する要因があるとしたら、どうでしょう。 じつは、アメリカで栽培されているトウモロコシの約9割は、遺伝子組み換え品種だと言われています。これは2012年にアメリカの農務省が調査したデータだそうです。そしてそのアメリカのトウモロコシを世界でもっとも大量に買っているのが日本です。 ご存知の通り、スウィートコーンは収穫するとすぐに味が落ち始めます。だから、日本に輸入されるスウィートコーンは、冷凍品か茹でて真空パックされたもの、もしくは缶詰がほとんどです。今のところ日本では遺伝子を組み替えた品種の商業栽培は始まっていないと言われているので、国内で食べる焼きトウモロコシは昔ながらの方法で栽培された物だと思って間違いないでしょう。 ただ、実際にはスターチや食用油の材料として、遺伝子を操作されたトウモロコシが大量に輸入されています。清涼飲料水などに使用される糖分も、トウモロコシから作られた物。知らず知らずのうちにトウモロコシから作られた物を口にしている可能性は高いのです。それはトウモロコシに限ったとことではなく、大豆はレシチンや醤油に、ジャガイモはでんぷんなどに姿を変えて、様々な加工食品の中に含まれているのです。 遺伝子組み換え食品って大丈夫なの? もし大丈夫じゃないとしたらどうなるの? 僕らの暮らしにどこまで浸透しているの? 遺伝子組み換え食品を避けて生活することは出来るの? この映画『パパ、遺伝子組み換えってなぁに?』は、そんな疑問から生まれた作品。英語では遺伝子を組み換えた農産物や、そうした食材を使用した加工食品をGMO(Genetically Modified Organism)と呼びますが、これはGMOをめぐる親子の旅のドキュメンタリーです。 監督は環境活動家でもあるジェレミー・セイファート。彼には3人の子どもがいて、その長男は植物のタネを集めるのが大好き。そのためジェレミーもタネに興味を持ち、GMOについて調べ始めたのだと言っています。 ちなみに、日本ではGMOは表示が義務付けられていますが、アメリカでは義務にはなっていません。だから、アメリカでGMOを避けるには、スーパーマーケットの店員に「これはGMOじゃない?」としつこく聞きまくったり、メーカーに問い合わせるなどするしかありません。買い物のたびにすべての食品に対してそんなことをするのは、現実的には不可能でしょう。 そもそもGMOとは本当に有害なのでしょうか。我が国においては、その安全性の評価は内閣府の食品安全委員会が担当しています。現在、日本国内で流通している遺伝子組み換えの農産物は、大豆(枝豆・大豆もやしを含む)、トウモロコシ、ジャガイモ、なたね、綿実、アルファルファ、てん菜、パパイヤなどだそうですが、これらは政府が安全を認めているということになります。 しかし、ジェレミーが取材したフランスの研究所では、安全とは言えない結果が出ていました。長期間に渡ってマウスにGMOを与え続けると癌が出来る、という症例がいくつもありました。遺伝子を組み換えた品種のタネを売る企業が、安全の根拠として行っている実験では期間が短すぎる、と言われています。 この映画には描かれてはいませんが、アメリカでGMOの表示が義務になっていないのには理由があります。それは制度が遅れているからではなく、ブッシュ(父親の方の)が大統領だった時代に、遺伝子組み換えによって栽培された農産物はそうではない農産物と同様に扱い区別しない、というルールを制定しているからだとか。 どうしてわざわざそんなことを決めたのでしょう。何だかきな臭い気がしませんか? ジェレミーも様々な取材によって、GMOの危うさを掘り下げていきます。そう、GMOは食品としての危険性だけでなく、それによって世界を支配することが可能になるという脅威もはらんでいます。食糧の根源を特定の企業が握れば、そこに世界の利益や権力が集中します。 実際、現在この遺伝子組み換え品種の市場を牛耳っているのは、アメリカのモンサントとデュポン、スイスのシンジェンタの3社です。2009年のデータでは、この3社が作ったタネは、世界の種子全体の市場の53%を占めています。もはや、自然な状態ではありえない遺伝子の組み換えで改造された品種が、ノーマルな品種を上回っているのです。さらに、詳しく見るとトップ2はアメリカのモンサントとデュポンであることがわかります。最大手のモンサントだけで27%です。モンサントはすでに世界の食糧事情を左右する大きな力を持っていると言えます。育てやすくて効率的に収穫出来るGMOの作物は、急速に世界に広がっています。その作付面積が毎年右肩上がりで拡大していることを考えると、これらの割合はさらに大きく膨らんでいるはずです。 2013年の調査によると、大豆は世界中の作付面積のうちの79%、綿は70%、トウモロコシは32%が遺伝子を組み換えられた品種です。それらのタネはモンサントなど発売元の企業によって特許登録されています。そして、そのタネを使用した場合、収穫した実からタネを取って翌年またその作物を育てるという農業では当たり前の行為が、契約で禁じられます。毎年新しいタネを買わせるためです。 それだけではありません。これも映画の中には登場しませんが、モンサントはターミネーター種子と呼ばれるタネも開発しています。そのタネは、実を収穫することは出来ても、収穫した実から取り出したタネは発芽しないよう遺伝子的にプログラムされています。このターミネーター種子は現時点では市場に出回ってはいないようですが、もしこれが普及したらモンサントは世界に対して圧倒的な支配力を持つことになります。 ここ数年、農作物を受粉させるミツバチが減少して食糧危機が危惧されるという事態が起きていますが、そのミツバチを死滅させる一番の原因と考えられているのは、ネオニコチノイドという農薬です。遺伝子を組み換えた品種が広まることで農薬の使用が減るのはいいことかもしれませんが、このネオニコチノイドを開発したのもモンサントです。 また、ベトナム戦争で使用され、戦後に奇形児の出生率を高め、癌の発症率を高めた原因ではないかと推測されている枯葉剤を作ったのもモンサントでした。モンサントが遺伝子を組み換えて作り出した品種は、その枯葉剤のような強力な除草剤でも枯れない耐性を備えているので、畑の管理が楽になります。農家は草むしりの手間やコストを省くために、種と除草剤をセットで購入しますが、その除草剤を使い続けた畑では、GMOの作物以外は育たなくなります。「GMOなんてもうやめる」と思っても、抜け出せなくなってしまうのです。 ジェレミーが家族とともに旅をしながら取材する、という構成になっているので、映画全体としてはどこかほのぼのとしていて、「こうなると食べたい物も食べられないね。困ったもんだねー」的なソフトな感じです。が、そこには身の毛もよだつ恐ろしい陰謀と底知れぬ欲望が暴かれています。 なお、日本ではGMOの表示義務があると書きましたが、じつはそれも正しくはありません。加工食品の場合、表示義務があるのは主たる素材がGMOである場合のみです。GMOが素材全体の5%に満たない場合は、表示の義務がないばかりか、「遺伝子組み換え品種は使用していません」と表示することさえ出来るのだとか。また、牛の飼料に遺伝子を組み換えたトウモロコシが含まれていたとしても、その牛の牛肉や牛乳を販売する際にGMOの飼料で育ったことを表示する義務はありません。豚や鶏の場合も同様。養殖のサーモンにも、そうした飼料を与えられているものがあるそうです。 もちろん、絶対的にGMOが危険だとは証明されてはいません。実験用のマウスの症状が人間にも同様に出るかどうかは、まだわかっていません。今の段階で言えるのは、マウスと同じようになるかもしれない、ということだけ。人間に悪影響がなく、恣意的に悪用されなければ、異常気象による飢饉や、厳しい自然環境で農作物の栽培が難しい地域への対策として、大きな救いになるかもしれません。 でも、現状では食品として安全ではないかもしれないこと、食糧による支配のリスクがあるかもしれないことを知っておくのは、悪いことではないでしょう。 とくにお子さんがいる方に観てほしい作品です。 『パパ、遺伝子組み換えってなぁに?』 text/キヌガサマサヨシ(夏休み計画)
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