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<映画紹介> |
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『 99分,世界美味めぐり』 |
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美味しいものを食べて、無意識に「しあわせ」と呟いてしまう事ありますよね。美味しいものは一瞬で脳を幸福感で満たします。そんな「しあわせ」を追い求めることに人生を懸ける人々がいます。フーディーズと呼ばれる彼らは、美味しいものを食べるためだけに世界中を旅してまわり、そのインプレッションをブログに綴ります。 この映画は、そんなフーディーズの活動にフォーカスしたドキュメンタリーです。登場するのは研ぎ澄まされた味覚を持つ5人の美食家たち。美食を求めて自家用飛行機で飛び回る大御所から、活動をはじめてまだ間もないルーキーまで。彼らとともに世界各国の注目のレストランを訪れます。
評価される側としては、映画の中でも、料理をより良くするための助言だと受け取るシェフもいれば、フーディーズの奴らは無知だと不快感を表すシェフや、言いたい放題の酷評に対して怒って包丁をまな板に突き刺すシェフもいます。もちろん、フーディーズによっても言い方は様々で、言いたい放題な人もいれば、真摯に料理と向き合って美味しいものと出会えた奇跡を喜ぶ人もいて、いろいろなのですが。 日本でも「食べログ」でコメントされたくないと、掲載について揉めた話もいくつもありましたが、映画としてはこうしたネット社会の姿をありのままに記録するとともに、個人の感想によって多くの人々が振り回される現象について、それでいいのか、という疑問を投げかけているようにも思えます。 しかしまあ、フーディーズたちのおかげで、気安く取材を受けない高級レストランの厨房まで覗けたりして、観る側としては楽しめます。ちなみに、紹介されているレストランは、パリの「ピエール・ガニェール」、イタリアのサン・セバスティアンにある「アルサック」、ニューヨークの「イレヴン・マディソン・パーク」などの三ツ星店を含む29店。日本では「菊乃井」・京都、「鮨さいとう」・東京、「神保町 傳(でん)」・東京、「都寿司」・東京の4店が登場します。 個人的に一番気になったのは、タイ人のフーディーズ、パーム・パイタヤワット氏が訪ねた中国の杭州の山奥にある「龍井草堂」。中国版のオーヴェルジュで、素材の持ち味を生かした昔ながらの中国料理を食べさせるこだわりの店です。スウェーデンのストックホルムにある「フランツェン」も、北欧キュイジーヌを代表するスターシェフの店で、醤油や味噌も取り入れているとかで気になります。食べることが好きな人なら、どの店もどの料理も興味深く、スクリーンに見入ってしまうはずです。 最後に5人のフーディーズを、彼らのサイトとともに紹介しましょう。 アメリカのスティーヴ・プロトニキは、レコードレーベルの元オーナーで大金持ち。強気な性格が言動にも表れて、歯に衣着せぬ批評をします。あまりにもズケズケ言うので、レストランでのシェフとのやり取りでは観ているこちらの方がひやひやしてしまいます。 ロンドン在住のアンディ・ヘイラーは、石油会社の元重役であり、ソフトウェアの開発でも成功して悠々自適に暮らす大金持ち。109あるミシュランの三ツ星店をすべて制覇していて、フーディーズ界では伝説的な存在。オタク的な感覚で厳しい批評を繰り出します。 アイステ・ミセヴィチューテはリトアニア生まれの元スーパーモデル。リトアニアで育った子ども時代は国が貧しい時代で、バナナを手に入れるために家族全員で何時間も列に並ぶなど、食べ物を手に入れるために苦労していたと話します。そんな過去を持つからか、料理を愛しむように食事する姿が印象的です。 パーム・パイタヤワットは、若きフーディーズです。親が中国系タイ人でバンコクで金鉱会社を営んでいるという御曹司であり、ロンドンに留学中。アジアの料理にも興味を持ち、アジア人の舌でヨーロッパの料理を味わい評論することで、多くの支持を得ています。 香港生まれ香港育ちのケイティ・ケイコ・タムは、まだフーディーズとして活動をはじめて間もない新米です。特別金持ちというわけではなく普通の家庭で育った彼女は、実家で生活しながらOLとして働き、その収入のほとんどを美食を食べ歩くための旅費や食事代に使っています。彼女を見ていると、もしかしたら自分もフーディーズになれるかもと思えます。ちなみに、彼女は日本にも頻繁に訪れているようで、サイトを見ると「すきやばし次郎」には昨年だけで2度も来店しているほか、都内の多くの店を紹介しています。
監督:トーマス・ジャクソン シャーロット・ランデリウス ヘンリック・ストッカレ © 2014 B REEL. All Rights Reserved. text/キヌガサマサヨシ(夏休み計画)
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