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<映画紹介> | |
『あなた、その川をわたらないで』 ※劇場情報の詳細は下記の公式サイトでご確認ください。 | |
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ある夫婦の暮らしを15カ月に渡って記録した韓国のドキュメンタリー。第21回ロサンゼルス映画祭で最優秀ドキュメンタリー作品賞を受賞した名作です。夫98歳、妻89歳。妻が14歳の時に出会い、結婚して76年目を迎えたという老夫婦。そんなふたりが注目されたのは、出かける時は必ずお揃いの韓服を着て、どこへ行くにも手をつないで歩く仲のいい夫婦だったから。冬には雪かきをしながら、雪玉を作ってぶつけ合ってはしゃぐ仲睦まじさ。高齢ながら子どものように純粋なふたり…。 |
理想の夫婦だと思います。こんな夫婦でいられたら、本当に幸せだろうと思います。でも、ただ長年連れ添うだけで、そうはなれるわけではありませんよね。自分の両親を見ていて、つくづくそう感じます。ほとんど会話もなく、ふたりで楽しそうに出かけることもなく。自分自身を省みても、80歳過ぎてこんなふうにいられるだろうかと考えてしまいます。夫婦で幸せに生きていくのは、ある意味ひとりで生きていくよりも難しいことかもしれないと思います。こんな仲のいい夫婦は世界にどれほどいるでしょうか。
まず、おじいさんの誕生日のシーンがあるのですが、韓国では誕生日に欠かせない料理があります。バースデーケーキ以上になくてはならないと言われるのが、ミヨック(わかめスープ)です。わかめはミネラルが豊富で、韓国では母乳の出をよくする効果があり、産後の体力の回復にも効果があると言われていて、子どもを産んだお母さんが食べるという習慣があります。また、子どもは産んでくれた母親への感謝を忘れないために、誕生日にわかめのスープを食べるのだそうです。映画の中の誕生日の料理の映像の中にも、ミヨックが並んでいるのがわかります。
また、韓国にはクーチョプパンサン(九楪飯床)という習慣がります。これは祝い事の席では9品のおかずを並べるというもの。古くからの言い伝えで、庶民の食事は3品、中流階級の食事は5品から7品、貴族の食事は9品で、王族が食べる宮中の食事は12品と言われているため、特別な日くらいは庶民も貴族の気分になって祝いたいという気持ちから生まれた風習だとか。映画の中でも、誕生日のお膳に置かれているのもスープと9品のおかずです。
このクーチョプパンサンの9品は、伝統的にはごはんとスープ、キムチは除いて数えるのだそうです。でも、映像の中の9品には、韓国風天ぷらのジョンや、春雨を甘辛く炒めたチャプチェに交じって、白菜キムチやカニのキムチのケジャンなどもあるようなので、最近は料理の内容にはそれほどこだわりはないのかも。もしくは、質素な生活だからキムチも含めて9品としているということなのかもしれません。
そうそう、チャプチェもお祝いの食事には必ず登場する必須の一品です。チャプチェは朝鮮王朝時代に王宮での宴会に出されたのが最初だと言われています。その時、美味しさに感激した王がチャプチェを作った料理人を褒めたたえ、長官職を与えたという言い伝えがあり、大変おめでたい料理とされています。
さらに話は逸れますが、韓国の誕生日と言えば、日本人にはびっくりなことがあります。韓国では、友人や職場の仲間と誕生日をしたら、祝ってもらった本人が飲食代を支払って客をもてなすのが一般的です。幼稚園などでは、子どもが誕生日になると、親は同じクラスの子どもたちにお菓子の詰め合わせを配ったりするのだそうです。日本人にとっては意外ですが、韓国以外にインドネシアやタイでも同様な習慣があるので、外国人の友だちに「誕生日でしょ。ごはんしましょう」と誘われたら、覚悟して行きましょう。
ふたりの日常の食事は、キムチとごはんだけという簡素なものです。息子や娘が訪ねて来ても普段であれば、水キムチ、ポッサムキムチ、豆腐焼き、卵焼きくらいが追加される程度。年齢的に食べる量が少ないのは当然でしょうが、仲のいいふたりを見ていると、贅沢なおかずはなくてもそれで充分なのだろうと思えてきます。食事の美味しさって、誰と食べるかによって変わりますよね。嫌いな人と食事をするのは苦痛以外の何物でもないし、ひとりで食べるのは虚しくて味気ない。でも、縁日の屋台のたこ焼きも、好きな人と食べれば美味しく感じますもんね。
この映画にそんな意図があるかどうかはわかりませんが、仲のいい老夫婦が食事をするシーンを観ていると、夫婦や家族の人間関係は一緒に食卓を囲む時間にすべてが凝縮されて表れるのではないかと感じます。相手を思いやる気持ちや、いつくしむ気持ち、敬う気持ち、感謝の気持ち。様々な思いが垣間見えます。こんな理想的な夫婦になるには、食事の時間もぶすっとして黙々と食べるなんて大間違いで、おろそかにしてはいけないけないのかも、と思えてきます。
「ウチは冷え冷えでとっくに手遅れ」という方や、「私は結婚なんかしませんから」という方もいらっしゃるでしょうが、こんなふうにヨボヨボになってもともに楽しく暮らせる夫婦になれるのなら、夫婦もいいかもねと、じわっと胸が熱くなる作品でおすすめです。
ふたりの日常の食事は、キムチとごはんだけという簡素なものです。息子や娘が訪ねて来ても普段であれば、水キムチ、ポッサムキムチ、豆腐焼き、卵焼きくらいが追加される程度。年齢的に食べる量が少ないのは当然でしょうが、仲のいいふたりを見ていると、贅沢なおかずはなくてもそれで充分なのだろうと思えてきます。食事の美味しさって、誰と食べるかによって変わりますよね。嫌いな人と食事をするのは苦痛以外の何物でもないし、ひとりで食べるのは虚しくて味気ない。でも、縁日の屋台のたこ焼きも、好きな人と食べれば美味しく感じますもんね。
この映画にそんな意図があるかどうかはわかりませんが、仲のいい老夫婦が食事をするシーンを観ていると、夫婦や家族の人間関係は一緒に食卓を囲む時間にすべてが凝縮されて表れるのではないかと感じます。相手を思いやる気持ちや、いつくしむ気持ち、敬う気持ち、感謝の気持ち。様々な思いが垣間見えます。こんな理想的な夫婦になるには、食事の時間もぶすっとして黙々と食べるなんて大間違いで、おろそかにしてはいけないけないのかも、と思えてきます。
「ウチは冷え冷えでとっくに手遅れ」という方や、「私は結婚なんかしませんから」という方もいらっしゃるでしょうが、こんなふうにヨボヨボになってもともに楽しく暮らせる夫婦になれるのなら、夫婦もいいかもねと、じわっと胸が熱くなる作品でおすすめです。
<おまけ>
映画の中に登場するわかめスープの作り方をご紹介します。以前、僕が韓国の方に教わったレシピで詳細な分量の記録はありませんが、簡単に作れるので、調味料の分量は味を見ながら調整してください。
材料は、乾燥わかめを水で戻したもの、戻したわかめと同量程度の牛肉の薄切り、白ネギ、おろしにんにく、擦り白ごま、えのき、ごま油、酒、醤油、塩、コショウ、昆布だし、ダシダ、水。
鍋でごま油を熱して牛肉を炒めます。牛肉の表面が白くなったら、わかめとおろしにんにくを加えて炒め、酒を加えます。酒のアルコールを飛ばしたら、昆布だし、ダシダ、しょうゆ、コショウ、水を加えて煮立たせます。沸騰したら、アクを取り、千切りにした白ネギとえのきを加え、中火で3-4分ほど煮ます。味見をして、塩気が足りなければ塩で味を調えてください。味が決まったら、器によそい、擦り白ごまを散らして完成です。
監督:チン・モヨン
出演:チョ・ビョンマン、カン・ゲヨル
製作:2014年 韓国 86分
配給:アンプラグド
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