料理映画:ある戦争 




◆映画:ある戦争


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<映画紹介>
美味しいごはんを楽しく食べたいから、
たまには平和について考えてみましょう

 



『ある戦争』
10/8(土)から、新宿シネマカリテほかで、全国順次ロードショー
※劇場情報などの詳細は、下記公式サイトでご確認ください。
http://www.transformer.co.jp/m/arusensou/


今回ご紹介する作品は、おいしそうな料理の映像も、感動を誘う食事のシーンも登場しません。では、なぜここで紹介するのか。おいしいものには平和な世の中が必須だからです。悲しみのどん底では、どんなご馳走も充分に味わうことは出来ません。平和でなければ、質の高い食材も手に入りません。この作品を観て、改めて平和について考えてみてほしい、と思います。


主人公のクラウスは、アフガニスタンに派遣されたデンマーク軍の中隊長。タリバンの略奪や暴力から住民を守る治安維持のために駐留しています。周囲には地雷も埋められていて、いつ銃撃されるかもわからない危険な地域です。



ある日のパトロールで、たびたびタリバンに襲われているので助けてほしいと言う民家を訪れます。そこでタリバンの奇襲攻撃を受けることに。ロケット弾も撃ち込まれる猛攻撃で脱出困難となり、無線で救出用のヘリを呼ぼうとするも、あまりにも銃撃が激しすぎてヘリが近づけず、戦闘機による空爆を要請します。数分後、戦闘機が飛来してクラウスが指定したエリアにミサイルを撃ち込み、中隊は脱出することができました。



しかし、このときの空爆によって子どもや女性を含む11人の一般市民が死亡し、空爆の指示が適切であったかについて、クラウスは軍事裁判にかけられます。部下たちの命を救ったヒーローだったはずが、一転して充分に確認せずに空爆させて民間人の命を奪った殺人者として裁かれることに。さて結末やいかに、というストーリーです。この作品には、現代の戦争が抱える様々な悲劇についてのメッセージが込められています。



昨今の戦争の多くは、国家対国家の武力衝突ではないので、国際法的には「紛争」と分類されるものがほとんどです。この作品の舞台となっているのはアフガニスタン紛争。紛争の大きな問題は、敵兵が町や村の中に紛れてしまっていること。そのため、映画の中で描かれているような不幸な事故で民間人が巻き込まれることも少なくありません。これは紛争における最大の悲劇です。


そうした悲しい事故が続いて、国際法が重んじられるようになりました。しかし、相手が敵兵だと判明するまで攻撃してはいけない、という決まりを戦場で順守することは容易ではありません。敵の位置を確認できないほど激しい銃撃を受け、被弾して重体の部下を抱えた一刻の猶予もない状況であるから空爆を要請したのに、それで事故が起きれば、確認義務を怠ったとして罪に問われてしまう。ならば、兵士には自分の命を守る権利はないのか、という紛争地の戦場ならではのパラドクスが、兵士たちを苦しめます。


裁判のシーンで、クラウスは検察官に厳しく責め立てられます。そこには、実際に戦場に立つことはなく机上の論理で正義を語る検察官と、銃弾やロケット弾が飛び交う中で生死をかけて活動する兵士との、大きな温度差が感じられます。



これは家庭でも同様で、アフガニスタンの市民を守るために命懸けで戦って来たのに、逆に子どもたちまで犠牲にしたことに苦悩するクラウスに対して、妻は「死んだ子どもが何よ。生きてる我が子のことを考えて!」と怒鳴りつけます。これも紛争特有の問題であり、悲劇のひとつと言われています。国家対国家の戦争ではないので、派遣された兵士の母国では日常に変わりはなく、家族には戦場のリアリティはありません。クラウスと妻のそれぞれが抱える「現実」に、大きな乖離が生じてしまいます。



実際にアメリカでは、戦場で特殊な体験をして来た帰還兵が、平穏な生活を送っていた家族との気持ちの隔たりが原因となって家庭が崩壊したり、世の中に馴染めずにドロップアウトしてしまうことが社会問題にもなっています。


先日、スウェーデンは廃止されていた徴兵制を復活させると報道されましたが、日本でも徴兵制の導入が検討されています。さらに、日本では男性だけでなく女性も対象とするとも言われています。誰しもが戦場に行かされるかもしれない、ということ。もはや他人事ではありません。法律が変更されてPKOで派遣される自衛隊が武器を使用できるようになったことで、あなたやあなたの子ども、甥っ子や姪っ子ちゃんが徴兵されて紛争地に派遣され、誤って現地の一般市民を死傷させることになるかもしれません。


日本がPKOで自衛隊を派遣させている南スーダンの場合は、そもそも治安維持活動そのものにも疑問が持たれています。俳優のジョージ・クルーニーらが設立した調査団体「セントリー」によると、日本政府が支援している南スーダンの大統領と前副大統領に、国の天然資源を私有化しての利益の独占、横領や略奪、詐欺などの容疑があると言われています(https://www.youtube.com/watch?v=tGRavEonXyU)。それが真実であれば、正義の味方のつもりで派遣されて、知らずに悪党の手先にされてしまうかもしれないのです。もしそんなことになったら、とんでもない悲劇です。


平和を守れるのは、平和を守りたいと願う気持ちだけ。無関心なままでは、平和は守れません。仲のいい友だちや大切な人と美味しいものを食べる、そんな当たり前の幸せが続くよう、平和のこと、考えてみてください。


なお、映画では臨場感のある映像で、観客もクラウスとともに戦場にいるかのような感覚になります。そのため、裁判の場面でも同じ危機を体験した目撃者として、審議の行方にドキドキハラハラ。クラウスの葛藤や苦悩も自分のことのように感じられて、最初から最後まで手に汗を握る思いが続きます。映画としてもとてもよくできた作品。おすすめです。

 

原題:KRIGEN/A WAR
監督:トビアス・リンホルム
出演:ピルウ・アスベック、ツヴァ・ノヴォトニー、ダール・サリム、シャーロット・ムンク、ヨハン・フィリップ・アスベックほか
製作:デンマーク 2015年 115分
後援:デンマーク大使館
配給:トランスフォーマー
© 2015 NORDISK FILM PRODUCTION A/S


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