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<映画紹介>
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『ママ、ごはんまだ?』 時々ふと食べたくなるものがあります。ひと口大に切ってカレー粉をまぶして炒めた鶏肉と、なすの味噌炒め。毎日毎日十数年も母が作ってくれた料理を食べていたのに、なぜか印象に残っていて思い出すのはこのふたつです。とくに変わったところがあるわけではないのに、どうしてなのか・・・。誰にでもそんな忘れられないお母さんの味がありますよね。 この映画は、そうした懐かしいお母さんの味を思い起こさせます。原作となっているのは、歌手の一青窈さんの姉である一青妙さんが書いた同題のエッセイです。一青姉妹の両親は、母が日本人で父が台湾人という国際結婚でした。姉の妙さんが子ども時代に過ごしたのは、台湾南部の台南という街。妙さんはこの街について『台南 「日本」に出会える街』という本も書いていますが、台湾の京都と呼ばれる風情溢れる街だとか。ちなみに、妙さんが生まれたのが1970年なので、この映画で描かれている時代も70~80年代が中心。スクリーンに映し出される台南の町並みは、昔の日本のようで郷愁がそそられます。 映画は、妙さんが20年前に亡くなった母の古いノートを見つけたことからはじまります。そのノートは、妹の窈さんが生まれた後に、家族で台湾から日本に移り住んで暮らした古い家の押し入れにありました。家を取り壊すために荷物を整理していると、箱の中に大切にしまわれたノートが出てきました。そこにはかつて母が作ってくれた料理のレシピが、びっしりと書き込まれていました。そのページをめくっていくうちに、懐かしい光景が次々に甦ります。母と手をつないで歩いた台南の市場。買い物の途中に寄った食堂。大きな中華鍋で料理を作る母の姿。テーブルに置ききれないほどのたくさんの料理。 一青姉妹の母は、出張で日本に来ていた台湾人の父に見初められて台湾に嫁ぎました。言葉もわからない国に飛び込んで、夫や家族のためにと懸命に台湾料理を学んだ母。親切な食堂の主人に料理を習って、レシピを書き留めていたのでした。実家の押し入れにあったノートは、そんな母の努力の結晶。そこには、家族を幸せな気持ちで満たしてくれた母の愛情が詰め込まれていました。 料理上手だった母は、いつでもたくさんの料理を作ってくれました。それは日本に住んでからも変わらず、手に入りにくい食材を探して家族が慣れ親しんだ台湾の味を食卓に並べてくれました。大きな包丁を使い小気味いい音を立てて食材を刻み、大きな鍋で煮込んだり炒めたり。何段も重ねた蒸し器からは常に湯気が立っていました。 醤油の染み込んだプリプリの豚足、もちもちの大根餅、ごろんと大きな肉が入ったちまき、トロトロに煮込んだお粥、涼拌黄瓜、しじみの醤油漬け、蒸し肉餅などなど。映画には数えきれない料理が登場します。それらを作ったのは辻調理師専門学校の先生たちだとか。「これ食べたい」「これも食べたい」「あー、あれも食べたい」と、映画を観ていると猛烈にお腹がすきます。料理好きな人にとっては、まさに至福の映画です。劇場に行く前に、最寄りの台湾料理の店を探しておくことをおすすめします。映画が終わったら、駆けつけたくなるはずですから。 料理が繋ぐ家族の絆の大切さを、改めて強く感じさせるとともに、人の記憶に残る料理とは何であるのかと考えさせられます。
監督:白羽弥仁 text/キヌガサマサヨシ(夏休み計画) |