以前紹介した『大統領の料理人』は、フランスの大統領のお抱えシェフの物語でしたが、今回紹介するのは江戸時代の日本で殿様の食事を作る男とその男を支える妻のお話。主役の春という女性を上戸彩が演じています。
江戸時代には将軍家や大名家では、主君の食事を作るのも武士のお役目だったのだとか。といっても、調理は特殊技能を要するので専門の要員に任されていて、彼らは刀の代わりに包丁を持つ武士と揶揄されて、包丁侍と呼ばれていたそうな。江戸時代の日本には士農工商の階級制度があって、階級的には武士がトップではあったものの、事務方で経理担当のそろばん侍や包丁侍は花形ではなく、少々情けない役職と見られていました。
朝鮮王朝では『チャングムの誓い』で描かれていたように宮廷料理人は女性だったのに、日本では男性に限られていたという文化の違いも興味深いですね。じつは日本では、江戸時代より以前、奈良時代よりもさらに昔から朝廷の食事は男性が作っていたという説があります。
そんな包丁侍の舟木家に生まれた安信は、次男であったために跡取りではなく、剣の道に進むべく鍛錬していました。ところが、兄が急死し、自分が父の後を継ぐことに。しかし、安信は料理にはまったく興味がなく、むしろ包丁侍と言われることを恥じていました。ゆえに、やる気がないからお役目についてはいながらも一向に料理の腕は上がらず、父は立派な料理侍でありながら、安信は上司に怒られてばかり。
そこで、父の舟木伝内は江戸にある主君・前田吉徳の側室の屋敷で女中として働く春に目を止めました。春は料理屋の娘として生まれ、子どもの頃から食べることが大好きで、料理がとっても得意でした。そんな春を安信の嫁にすれば、息子の助けとなってくれるに違いない、と伝内は思ったのでした。
春に頼み込んでめとったものの、安信にとって春は自分が見染めた相手ではないので興味もなくギクシャクとした夫婦関係でした。それでも、そんな夫を一人前の包丁侍にすることが自らの役割りと心得ていた春は、夫に自分の料理指導を受けさせるために離縁を懸けた料理対決を申し入れ、健気に内助の功を尽くすのでした・・・。
実際に代々加賀藩の包丁侍であった一家が物語のモデルとなっていて、伝内と安信が書いた当時の加賀料理のレシピ集「料理無言抄」をもとに、映画の中でもたくさんの料理が再現されています。
幼くして両親をなくした春を引き取り、親代わりでもあった側室のお貞の方(おていのかた)が、藩の内乱で囚われた際に差し入れにと精魂込めて作った重詰め。夫の出世のきっかけとなった藩財政の節約のために鶏肉の代わりにすだれ麩を用いた治部煮。江戸詰めから戻る主君を迎えるために作る特別な宴の膳。次々に登場する料理は、どれも美味しそうです。
思いを込め、手を掛けて作った料理は、人の心を動かすこともあると教えてくれます。ついつい面倒で、空腹を満たすためだけの簡単手抜き料理で妥協してしまいがちだけど、大切な人のためには丁寧に料理しなくちゃなー、と思わされます。そして、料理を作れるのは素晴らしいことだと気づかせてくれます。料理って素晴らしいー。
監督は、『釣りバカ日誌』シリーズを撮ってきた朝原雄三。
キャストは、上戸彩、高良健吾、西田敏行、余貴美子、夏川結衣 ほか。
『武士の献立』
12/14(土)から全国でロードショー
※劇場情報などは公式サイトでご確認を。http://www.bushikon.jp/
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