エキセントリックなテーマ曲とともに大ヒットした『バグダッド・カフェ』で、名演技を見せたマリアンネ・ゼーゲブレヒトが主演する『バチカンで逢いましょう』が公開されます。
『バグダッド・カフェ』が製作されたのは1987年。なんともう27年も前のことなんですね。この作品の中での彼女の役は、地味で無口で頑固なドイツ人女性。夫とアメリカを車で旅している途中に夫婦喧嘩をして、ラスヴェガス郊外のモハーヴェ砂漠で車を降りてしまう。小太りな彼女がスーツケースを引きずって荒野の中の道路を歩く姿が印象的でした。そして辿り着いたのが、モーテルとカフェとガスステーションを兼ねたバグダッド・カフェ。行く当てがなくそのモーテルに滞在していた彼女がカフェを手伝うようになり、得意のドイツ料理を作って、寂れた店が人気カフェになるというストーリーでした。
今回の『バチカンで逢いましょう』でも、マリアンネ・ゼーゲブレヒトは料理の腕を振るいます。彼女が演じるのは、夫を亡くしたばかりのおばあちゃん。家族からはオマと呼ばれています。オマとはドイツ語でおばあちゃんのこと。
愛する夫とともに美しい山並みを望むカナダの高原で暮らしていたオマ。夫を亡くし、あることを決意します。人里離れた山の中でのひとり暮らしは心配だからと、都会の老人ホームに入れようとする娘を振り切ってローマへと旅立ちます。彼女にはどうしてもバチカンを訪れてローマ教皇に告解し、神の許しを得たい秘密がありました。昔々に若気の至りで犯した過ち。とはいえ、カトリック教会の最高位である教皇に簡単に会えるはずもなく、思いを遂げるためにローマの大学に通う孫娘のアパートに長く滞在することに・・・。
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そんなとき、たまたま入ったやる気のないドイツ料理店の不味い料理にあきれたオマは、「ならば」と自ら厨房に乗り込んで料理を作ります。その料理を食べた店主が、店を手伝ってくれと申し出ます。オマの作るレモンバターをかけたウィンナー・シュニッツェル(ウィーン風仔牛のカツレツ)の美味しそうなこと。彼女が作る自慢の料理の数々は見物です。スクリーンを観ていると猛烈に食欲を掻き立てられます。日本ではドイツ系の店が少ないので、なかなか食べる機会がないですが、どれも美味しそうで食べてみたくなります。そうして、彼女のおかげで、廃業寸前だったレストランも大盛況となるのでした。
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展開的に『バグダッド・カフェ』と酷似した部分もありますが、マリアンネさんの人柄のおかげで許せてしまいます。2つの作品はまるで繋がりのない別物ではありますが、「あらあら彼女またやってるのね」と愛されキャラの近所のおばちゃんの姿を見ているようなほのぼのとした気持ちにさせてくれます。
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また、27年も経っているのにマリアンネさんがあまり変わっていないところも見物です。『バグダッド・カフェ』の時は40歳そこそこながらすっかりおばさんの貫禄だったので、来年70歳という年齢になっても、変わりなく見えるのでしょうか。ですが、そんなお歳ながらもチャーミングでかわいいところは、ぜひ見習いたい。
ところで、映画の中ではオマが抱えていた秘密があまりにもセンセーショナルな内容なのです。いつまでも戻って来ないオマを心配して追いかけてきた娘に、長年抱えていた秘密を打ち明けると、あまりのショックに娘は半狂乱に。あわや家族崩壊かというときに、その危機を乗り越えさせたのが、ドイツ伝統のスイーツ「カイザーシュマーレン」でした。
オマがローマを訪れた時の教皇は、昨年退位したドイツ人のベネディクト16世。お膝元のローマで話題のドイツ料理店の噂は教皇の耳にも届き、教皇の会食用にと100人分のカイザーシュマーレンの注文が入ります。大量のオーダーをこなすために、娘と孫もお菓子作りを手伝います。力をあわせて料理をするうちに、次第に心が打ち解けて、再びひとつになっていく家族。やっぱり料理って素敵です。
オマはローマで恋もして、ふっくらと美味しそうなカイザーシュマーレンのように、観る人の心も甘くやさしい気持ちで満たしてくれるハッピーな映画です。料理を作ることが愛しく感じられること間違いなし。
ちなみに、カイザーシュマーレンとは、もともとはアルプス地方の質素な田舎風のパンケーキでした。大の甘党だった18世紀のドイツ皇帝が、それにたっぷりのバターと粉砂糖を加えさせたことで「カイザーシュマーレン=皇帝のパンケーキ」が誕生したと言われています。ドイツやオーストリアで人気の高いデザートで、主食として食べられることもあります。
そんなオマの家族の絆を強めた「カイザーシュマーレン」、食べてみたくないですか? 映画の公開に合わせて、都内のドイツ&オーストリア料理のレストランやカフェで「TOKYOカイザーシュマーレン・フェスタ」の開催も決まりました。日本ではめったに食べられない皇帝のパンケーキがいただけます。フェスタ期間は4月14日(月)~5月25日(日)。ノイエス(赤坂)、ツム・アインホルン(神谷町)、ヨーロビアンダイニング ビッテ(永田町)、インゴビンゴ(経堂)、レッカーマウル(六本木)、西欧菓子 伊藤屋 国立(国立)、フレイ延齢堂(湘南台)ほかで実施予定です。こちらもぜひお楽しみに。なお、フェスタの詳細については、映画の公式サイト(www.cinematravellers.com/)でご確認ください。
© 2012 Sperl Productions GmbH, Arden Film GmbH, SevenPictures Film GmbH.
監 督:トミー・ヴィガント(『飛ぶ教室』)
出 演:マリアンネ・ゼーゲブレヒト(『バグダッド・カフェ』『ロザリー・ゴーズ・ショッピング』)、ジャンカルロ・ジャンニーニ(『流されて…』『イノセント』『ハンニバル』)
製 作:2012年ドイツ
配 給:エデン
上映時間:105分
text/キヌガサマサヨシ(夏休み計画)
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