2014年5月31日(土)から、
岩波ホールほか全国順次公開
http://www.cine.co.jp/mitsubachi_daichi/
日常生活をするうえで、ミツバチのことを意識することはないですよね。ミツバチと言ってもハチミツくらいしか思い浮かばないという人も多いでしょう。そんなミツバチの減少が急速に進んでいると、昨年あたりから話題になっています。
この映画は、祖父が養蜂を行っていたというスイス人のイムホーフ監督が、アメリカ、ドイツ、中国、オーストラリアなど世界各地をめぐって、その実情を丁寧に取材したドキュメンタリーです。
じつは、人間の食糧の3分の1はミツバチによる受粉を必要としていると言われています。家畜や養殖魚の飼料に使われる穀物類にも受粉は欠かせないでしょうから、そうした二次的なものも含めると、天然の魚介類以外のほとんどの食べ物は何らかのかたちでミツバチのお世話になっているのではないかと思われます。
かつて、レオナルド・ダビンチが
「ミツバチが全滅すれば人類は4年で滅びる」
と言ったとか。
植物が実をならせるためには受粉が不可欠ですが、受粉は動物や鳥、ミツバチ以外の昆虫によっても補助されるし、風で花粉が飛んで受粉することもあります。
しかし、ほかの何よりも効率的にその作業を助けてくれるのがミツバチなのです。そのため、農家では受粉の時期に養蜂家を呼ぶのだそうです。とくに広大な土地で大規模農業を行うアメリカでは、ミツバチなくして作物を大量に収穫することは出来ません。
映画では、大きなトレーラーにミツバチの巣箱をいくつも積んで、全米の農園を廻る養蜂家が紹介されます。彼はミツバチ・ビジネスで大きな利益を得るために、病気や寄生虫への耐性を持たせるためにミツバチに抗生物質などを投与していましたが、それでも大きな被害が出るようになったと語っています。
環境保護団体のグリーンピースはネオニコチノイド系農薬が影響していると主張していますが、地球温暖化によって自然の中で越冬するダニが増えてミツバチの幼虫を襲うという研究者もいたり、伝染病のせいだという説があったり、人間による不自然な交配のせいだという意見もあります。しかし、明確な原因はまだ不明です。
わかっているのは、国連が報告しているようにミツバチの減少は世界的に起こっているということ。
中国の映像では、ミツバチがいないために、人力で受粉作業する村が紹介されています。
これは大変衝撃的なことで、労働力が豊富で人件費の安い中国ならば、そんな代替えも可能かもしれませんが、ミツバチによる受粉が出来なくなれば、世界中で農作物の生産量が激減し、食糧危機が起こることは間違いありません。
日本の食料自給率は、カロリーベースの計算で2012年の実績は40%に達していません。その数字さえも、じつは実態に則していないとも言われ、さらにTPPで海外から安い農作物が輸入されるようになれば自給率の低下は免れないという状況。
この映画に日本は登場しませんが、日本でもミツバチの減少は進んでいて彼岸の火事ではありません。食材の多くを海外からの輸入に頼っている日本としては、世界的な食糧危機が起これば真っ先に深刻な状況に陥るはずです。この映画を観たからといって、私たちに何かできることがあるというわけではないですが、そんな危機的な状況が目の前にあることを知るのは大切なことでしょう。
また、映画の中では、いままで知らなかったミツバチにまつわることなども紹介されています。オーストリアには働き蜂になるはずのミツバチの幼虫を人工的に女王蜂になるように育てて世界各国に売る業者がいるとか、オーストラリアはミツバチを大量死させる深刻な伝染病に汚染されていない最後の大陸であるなど、興味深いトピックスも盛り込まれていて楽しめます。
ミツバチの生態を捉えた映像も、内視鏡や特殊なマクロレンズを用いて巣箱の中を撮影し、女王蜂誕生の瞬間や情報交換のための働き蜂たちのダンスなどが見られます。飛行中の様子は、ミニヘリコプターや無人偵察機を使用して、自分もミツバチと一緒に飛んでいるかのような視線で見せてくれます。
小さな命に支えられている人間の暮らし。それなのに、何もかもコントロールできているかのように振る舞う横柄な人間。そんな驕りが自然のバランスを崩させて、ミツバチの大量死を招いているのかもしれません。たかがミツバチ、されどミツバチです。
ちなみに、こちらの作品、スイス映画賞、バイエルン映画賞、チューリッヒ映画賞、オーストリア・ロミイ映画賞、ドイツ映画賞で最優秀ドキュメンタリー賞に選ばれています。食に興味があるみなさんに、ぜひ観ていただきたい作品です。
監督:マークス・イムホーフ
2012年 ドイツ・オーストリア・スイス合作 91分
配給/シグロ
http://www.cine.co.jp/mitsubachi_daichi/
2012 zero one film/allegro film/Thelma Film & Ormenis Film
text/キヌガサマサヨシ(夏休み計画)
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