あいかわらずNikiユs では、インド料理の教室が充実している。
東部インドのラクシュミ先生、南部インドのラサ先生、ベンガル地方出身でバングラディシュのクク先生、そして、今回ご紹介するウマ先生。
10人いる先生たちのうち、なんと4人までが、インド亜大陸に広がる香辛料圏出身なのだ。
これまで参加した他の先生たちの教室レポートからもわかるように、一言にインド料理といっても、文化や地域や出身階級によって、実にバラエティに富んでいる。インドの先生に出会うたび、日本で普通
に考えられているインド料理とはひと味違ったインドの家庭料理を知って、驚いてきたものだ。
今回は、どんな驚きが待っているのだろう。
ウマ先生の家は、本牧のマイカルから歩いてすぐの、マンションにある。 玄関を開けると、もう美味しそうな香辛料の香りが部屋いっぱいに立ちこめている。
しばらく教室にご無沙汰していたナカキタにとっては、少しばかり敷居が高いと感じていたNikiの教室。だけど、ほんの数ヶ月前までは当たり前のようになじみ深かったスパイスたちの香りが、一瞬にして、教室に通
っていた頃の自分に引き戻してくれた。香りの力ってすごい。
「おそくなりました。よろしくお願いします」
自己紹介をして、キッチンに集まる生徒さんの中に入る。みんな、真剣な表情で、ウマ先生の手元を見ている。
今日のメニューは、「カシューナッツのチキンカレー」と、「簡単パコダ」、それに「ピーチのラッシー」だ。
すでに、料理は佳境に入っていた。鍋の中に、炒めたタマネギとガラムマサラをベースにしたカレーがいい感じに沸々と煮立っていた。
もう一つのコンロでは、今まさに、パコダを揚げようとしているところだった。パコダは、薄切りしたタマネギに、ヒヨコ豆粉とチリパウダーをまぶして揚げる、インド風かき揚げのような料理だ。
せっかく久しぶりに教室に参加したのに、遅刻は痛かったなあ。いちばん見たかったカレーの最初を見逃してしまった。
そうこうしている間に、パコダは揚がり、カレーも仕上がり、デザートのラッシーに取りかかる。
ヨーグルトとピーチと砂糖をミキサーで混ぜれば、できあがり。これで、今日のレしピーはすべて完了だ。そんなわけで、ウマ先生に、インドのお話を聞くのが、今回のメインイベントということになりそうだ。
「テーブルセッティングをします」
ウマ先生は、上手な日本語でテキパキと説明しながら、テーブルの上に、手際よくお皿を並べていく。
今日の生徒さんは、全部で6人。初めての人も、何度かレギュラーで来ている人も、みんな熱心にメモを取りながら、クルクルとよく働く。今日は、Nikiも、息子君を連れて参加していた。
いつもの教室の、いつもの雰囲気。でも、横浜を遠く離れたナカキタにとっては、この時間がとても懐かしく、また、愛おしく感じられる。
準備をしながら、ウマ先生は、ご自分の経歴を少しずつ話してくれた。
インドの裕福な家庭に生まれ育ったウマ先生は、日本に来るまでは、料理を作ったことはおろか、洗濯したことも、赤ん坊だった娘のおむつを替えたこともなかったんだそうだ。実家にメイドは3人。結婚して一人娘を生んだときも、娘が欲しいのに授からなかった親戚
の叔母さんや従兄弟たちが、よってたかって世話をしたので、ウマ先生の出る幕はなかったのだそうだ。
「こちらへ来たのが12年前。そのときには、ご飯を炊くことも出来なかったのよ。トイレはお掃除しなければ汚れることも知らなかったし、放っておくとテレビに白いホコリがたまって、画面
が見づらくなるのを知らずに、なぜうちのテレビは見えにくいんだろうと、不思議に思ったりしていたものです」
うわっ。それって・・・。むっちゃくちゃ、深窓じゃないですか。
綺麗に磨かれたマンションからは、そんなウマ先生の過去など、うかがい知ることも出来ない。もちろん、美味しそうにできあがったお皿の料理を見たら、そんな話をにわかには信じがたい気持ちでいっぱいになる。
でも、在日12年の先生が発する流ちょうな日本語を聞けば、おそらく、彼女が並大抵でない努力をして、今の自分を手に入れたということがよくわかる。
さて、いよいよ試食タイムだ。テーブルに着いて、今日の作品をみんなでいただく。
ウマ先生の味は、ラクシュミ先生やラサ先生に比べて、少々スパイシーだと思った。カレーは、レッドチリとジンジャーの刺激が、ガラムマサラの香りに包まれて奥行きを持って立ち上ってくるような、そんな味。
パコダは、ヒヨコ豆パウダーの、独特な豆っぽい香りと甘みが、レッドチリの辛みと合わさって、タマネギのコクを引き立てている。どちらも、かなりホットなお味だった。
最近、Nikiの教室に、男性の参加者が少しずつ来てくれるようになったと聞く。彼らが参加するのは、まず間違いなく、インド料理だそうだ。香辛料の組み合わせによって味ががらりと変わるインド料理は、男性が好みがちな「調合」とか「研究」とか「仕掛け」とかいうキーワードに、ぴったりとはまるのかも知れない。
ウマ先生のお料理などは、おそらく、そんな男性受講者の興味と味覚を、きっちり満たしてくれると思う。ナカキタとしては、この教室、ぜひ、男性のインド好きにもお奨めしたい。日本語が通
じるというのも、初心者の方には心強いに違いない。
食事をしながら、どうやって日本語を学んだのか、聞いてみると、意外な答えが返ってきた。
「テレビを一日中つけていたわ。保育園に行くようになった娘が、驚くほど日本語を吸収して帰ってくるので、彼女にいちいちテレビの中の日本語の意味を聞いて、少しずつ覚えていったの」
ああ、そういう手もあるんだ。まったく知らない外国語を学ぶには、テレビは案外強い味方なのかも知れない。
ちなみに、いちばん好きな番組は、「渡る世間は鬼ばかり」!
「家族や親戚の中にもいろんな人がいて、笑ったり泣いたりケンカしたり。そういうのって、日本もインドも違わないのよ」
大家族主義のインドでも、やっぱり嫁と姑は仲が悪いのかなあ。家を継ぐだの、若い世代がいうことをきかないだの、介護はどうするだのという問題で、仲違いしたり話し合ったりしてるのかなあ。
一見、日本とはまったくかけ離れたメンタリティを持っているように見えるインドの人たちが、やっぱり似たようなことで右往左往していると考えると、ちょっとおかしい。
だけど、インドの大家族主義は半端じゃない。日本でいう七五三のようなお祝い、「初サリー」のセレモニーには、親戚 一同100人から500人くらいの客を呼ぶのだそうだ。まして、結婚式になると、1,000人もの来賓が来るという。
娘さんの「初サリー」の写真を見せてもらうと、まるで、インドのお姫様のように着飾ったかわいらしい女の子が、花飾りに囲まれてにっこり笑っている。「彼女は、親戚
の中でも初めての女の子なので、母や叔母たちが張り切って、花のアレンジからドレスのデザインまで寄ってたかってやってくれたの」
日本の七五三や成人式などの比ではない、子どもにとっては重要な通 過儀礼のセレモニーなのだろう。
ウマ先生のインド文化レクチャーは、写真やビデオを持ち出して、熱っぽく続く。お料理とともに、インドのことを知って欲しいと願う先生の気持ちが伝わってくる。
ウマ先生の教室は、スパイシーなインドの家庭料理とともに、その背景にある風習や、考え方にまで触れることができる。
これこそNikiが教室を通して目指しているコンセプト、「国境を溶かす場所、キッチン」を、とてもわかりやすく、はっきりと体現している教室だと思った。
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本日のレシピ
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◆カシューナッツのチキンカレー
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◆材料◆
鶏肉300g
タマネギ1個
カシューナッツ300g
トマト1個 バター300g
クローブ2本
シナモン2本
カルダモン2粒
ジンジャー&ガーリックペースト小さじ1
ガラムマサラパウダー小さじ3
レッドチリ4個
コリアンダーパウダー小さじ3
コショウ小さじ1
コリアンダーの葉、
ミントの葉適宜
塩少々
◆作り方◆
1 ガラムマサラは、熱したフライパンにスパイスとカシューナッツを入れてよく炒る。
2 鍋にバター200gを入れて、細かく切ったタマネギとトマトを入れてよく炒める。チキンを適当な大きさに切って入れる。
3 水は加えずに、チキンによく火が通るまで炒める。
4 火を弱めて、さらに25分、野菜から出た水分だけで煮込む。
5 ガラムマサラとレッドチリを加える。
6 コリアンダーとミントの葉を加え、最後に残りのバターを加える。
7 ご飯を添えてすすめる。
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◆簡単パコダ
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◆材料◆
ヒヨコ豆粉C1/2
タマネギみじん切り1/4個
グリーンチリ2個(またはチリパウダー小さじ1)
牛乳小さじ2〜3、
塩少々
◆作り方◆
1 材料を混ぜて、全部がドロドロに混ざり合って、スプーンからゆっくりと垂れるくらいの堅さにする。堅さは牛乳で調整。
2 油を熱して、1をスプーンですくって落としていき、きつね色になるまで揚げる。
3 トマトケチャップといっしょにすすめる。
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◆スウィート・ピーチ・ラッシー
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◆材料◆
ヨーグルトC3
砂糖小さじ4
桃缶のスライス1缶分
◆作り方◆
すべての材料をミキサーに入れて、4〜50秒混ぜる。
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