こんにちは、お久しぶりのナカキタ、そしてお久しぶりのNiki's Kitchenです。

横浜を離れてから一年。去年の末、クリスマスシーズンに訪れた横浜は、なんだか少しだけ他人の顔を見せながら、私を迎えてくれました。冷たい海風に吹かれながら、大桟橋のウッドデッキで港を見ていた時、本町通 りに次々と立った新しいマンションを見た時、みなとみらいの新しいレストランで食事をしていた時、それから、突貫工事中の地下鉄の駅を通 り過ぎた時。ああ、ここはもう、一年前のここじゃないんだなあと、妙な感慨にふけったり。

Niki's Kitchenも、いろいろと変わりました。帰国した先生、新しい先生、それから、新しく仲間になった生徒さんたち。でも、お料理を通 して自分の国のことを伝えたい先生と、お料理を通して異文化を体験したい、コミュニケーションを楽しみたい生徒さんたちが、アットホームな雰囲気で教室を進めていくという、Niki'sの方針は変わりません。

さて、そんな新しい先生の中から、今日はメキシコのルシオを紹介します。


第二十一回 末娘たちの、メキシコ伝統料理

 
     

*ルーシオの作る料理:Photo@ EMiko

メキシコ料理というと、何を思い浮かべますか? タコス? ナチョス? タコサラダ? レッドチリをふんだんに使った、比較的大味な料理?こんな日本人の思いこみを払拭したいという思いが、ルシオの料理教室の原動力となっているのです。

日本人が思い浮かべるメキシコ料理の大半は、アメリカ経由の、いわゆる「テックス・メックス料理」。実際のメキシコ料理に比べたら、ずいぶんアメリカナイズされたものです。伝統的なメキシコの食文化は、もっとずっと豊かで、奥が深いものだというのです。それは、いったいどういうものなのでしょう。


まず、昔ながらのメキシコの家庭には、キッチンとは別に、20畳くらいの「料理部屋」があります。水場と大きな調理机とガス台があるその部屋は、料理店の厨房を思い浮かべればイメージは近いかも知れません。

あるいは、シンデレラが立ち働いていた、大きなかまどや樽や麻袋に入った食材がぎっしり詰まった、下働き用の部屋とか。

一つの皿に3時間から、長い時には半日かけて、根気よく作り上げていくのがメキシコ流のお料理。一つの料理に使う食材は、20種類から30種類もあるといいます。

たとえば、メキシコを代表する料理の「モレ」。これには、いろんな種類があるのだけど、砂糖を使わない濃厚なチョコレートソースを鶏肉にかける「モレ」が有名です。何十種類もの季節の野菜やフルーツ、豆などを、スパイスやチリでじっくりと煮込んで作るこのジューシーなソース。

気が遠くなるほどの手間と材料を、こってりと煮込んで作る「モレ」のような料理が、毎日、この「料理部屋」で生み出されるわけです。その食にかけるこだわりと執念は、日本人の美食とはまた違った意味で、すごいものがあります。

ところで、こんなに手間のかかる料理、いったい誰が作っているのでしょう。

実は、メキシコでは、伝統的に「料理部屋」の番をするのは、その家の末娘ということになっているのです。つまり、末娘は成人するまでに、お手伝いさんとともに台所を仕切れるようにしつけられ、年頃になれば、家事と料理一切を母親に変わって切り盛りする役目を与えられるのです。

末娘は、その家の母親が亡くなるか、成人してから20数年、年季が明けるまで、この家の台所を守る役目を与えられて、たとえ好きな男性ができても、年季が明けるまでは嫁入りを許されないのだそうです。

なんて不幸! 女性として生まれて、たまたま最後の娘だったというだけで、若い盛りを厨房に縛られて生きていくように運命づけられた、メキシコの末娘。そんな末娘たちの犠牲のもとに、芸術的にまで昇華された、濃厚なメキシコの食文化が伝えられてきたことを考えると、こってりとした「モレ」の中に、たくさんのやりきれない思いや、報われない恋心までとけ込んでいるような気がします。

実際、ルシオの叔母さんも、そんな宿命の末娘の一人でした。彼女には、晴れて年季が明けたら結婚を約束した男がいました。20数年待つと誓った男の言葉を支えに、来る日も来る日も粉をふるい、材料を切り刻み、ソースを煮込み続けた叔母さん。ところが、その男は年季が明ける一年前、別 の女性と恋に落ち、叔母さんを捨てて逃げたのでした。打ちのめされた叔母さんは、年季が明けた今もすっかり酒浸りの生活をしているのだそうです。

そんな悲劇も、おそらく日常茶飯事のことだったのかも知れません。それでも、ルシオが語る叔母さんの話は、どことなくおとぎ話めいて聞こえるから不思議です。メキシコは、本当に「シンデレラ」の国なのかも知れない。そんなふうにさえ思えます。 メキシコの末娘たちにとって幸せなことに、このような古い伝統は、ここ20年ほどの間にすっかり影を潜め、近代的な社会の中で、自由に恋をして、働いて、結婚する自由を手に入れられるようになりました。

けれども末娘の労働のもとに成熟した、豊かな食文化は、そのままメキシコの人たちの中に残り、今でも手間暇かけた伝統料理を愛し続けているのです。もちろん、末娘が「料理部屋」に閉じこもって、日がな一日鍋の番をしていた昔のようにはいきませんが、それでも、食を楽しむために労力は惜しみません。

テックスメックス経由ではない、本当のメキシコ料理を日本で教えたい。ルシオの情熱が、なんとなく理解できるような気がします。たくさんの名もない末娘たちの作り上げた伝統の味を、少しでも伝えたいから。本物のメキシコ料理が、どっしりと濃厚で、スパイスの奥にいろんな味を隠していて、決して辛いだけのものではないことを、わかってほしいんじゃないかしら。

もしかしたら、彼女自身の叔母さんの名誉のためにも。

ちなみに、今日紹介するのは、そんな手間も材料もたっぷりかけるメキシコ料理を、もっとも手軽に味わえる、忙しい家庭仕様の味。ぜひ試してみてください。そして、本物の、末娘たちのメキシコ料理に興味が湧いたら、ぜひ、ルシオの教室も覗いてみてください。


▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼

本日のレシピ (レシピ:IO 写真:Shiho)

▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
◆Tuna a la Vizcaina(ツナのVIZCAINA風)
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



●材料●
ツナ缶  4カップ  
トマト缶1缶 
オニオンスライス   3カップ  
グリーンオリーブ 2カップ  
ニンニク  10片  
イタリアンパセリ  2カップ  
ジャガイモ  2センチ角にカットしたもの 3カップ  
クノール  大さじ1  
アーモンドスライス  お好みで  
タマネギ  1/4個  
ニンニク  2片  
オリーブオイル  3カップ(エクストラバージン)


●作り方●
1)フライパンにオリーブオイルを入れ、ポテトを入れる。(油が冷たいうちに入れて良い。油で煮るような感じ)  塩少々を加え、ニンニク3片ほど加える。中火くらい  

2)5、6分たったらスライスオニオンを加える。ニンニクは茶色くなる前に取り出す。ジャガイモに火が通 ってもまだ色が変わらない場合は取り出さなくてもよい。ニンニクがこげると酸っぱくなってしまうそうです。  

3)トマト缶とタマネギ1/4個をブレンダーにかけ、2のライパンに加える。  

4)クノール(チキンブイヨン)を加える。油とトマトがよく混ざってきれいな赤色になったら水を加える。  

5)沸騰したらツナ缶を加える。  

6)アーモンドスライス、刻んだイタリアンパセリ、グリーンリーブを加える。  

7)汁気がひたひたになったらできあがり。コリアンダーライスに添えていただく。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
◆ARROZ AL CILANTRO(コリアンダーライス)

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

●材料●  
米   2カップ  
水  2カップ  
コリアンダー  刻んだもの1カップ半  
オリーブオイル 半カップ  
クノール  小さじ2  
ニンニク 1片  
たまねぎ  1/4個  
サラダオイル  1カップ

●作り方●  
1)水、ニンニク、たまねぎはミキサーにかけておく。  

2)なべにサラダオイル(コーンオイル)を入れて米を加え  米が白っぽくなるまでゆっくりとかきまぜる。米が白っぽく  なったら残っている油を切る。  

3)1とクノールを加え塩少々も入れて沸騰してきたらふたを  して中火で20分くらい煮る。(米に火が通 るまで)  

4)ボウルなどに米を移し、オリーブオイルとコリアンダーを  加えて全体をかき混ぜて、できあがり。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
◆Mexican Hot Chocolate(メキシカンホットチョコレート)

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※  


●材料●
メキシカンチョコレート(IBARRAなど)あるいは  上質のダークチョコレート 200g  
シナモンスティック 2本  
エバミルク 1缶(大きいサイズ)  
牛乳    1リットル  
熱湯    3/4リットル  
Maicena(コーンスターチで代用可)半カップの水に大さじ4溶かしたもの
*チョコはソルデルクスコは下記で入手可
http://www.vivas.jp/food/syokuzai-peru-soldelcusco.html

*Maicena
メキシコで売っているコーンスターチのこと

●作り方●  
1)大きい鍋にシナモンスティックと水を入れて沸かす。  
2)エバミルク、牛乳、チョコレートを加えて円を描くようにこげつかないように底からかきまぜる。  
3)Maicenaかコーンスターチを水に溶かしたものを加えて  さらによくかきまぜる。Maicenaの量 によってはかなりとろみがつくので量を加減してください。またとろみがついているので、あたためると非常に  熱くなる場合があるので飲む時にやけどしないよう気をつけ  ましょう。


▼第22回へ
エッセイストの紹介
中北久美子 ナカキタクミコ
(プロフィール)
中北久美子 

ナカキタクミコ 名古屋の情報雑誌月刊「KELLY」編集から編集 デスクを経てフリーに。以後、雑誌・広告・社内報・官公庁の出版物・ゴース ト・ ラジオの構成などで企画・取材・執筆を担当。結婚後、神戸、金沢、富山と拠 点を 移しながらその土地の取材物を中心にライターを継続。今後は、女性のライフ スタ イルに関する記事を書いていきたいと考えている。 現在、横浜在住。好きなものは温泉、お散歩、お茶、古い建物、犬、60年代 のR &B、70年代のブリティッシュロック、80年代のスィートレゲエ、「館」のつ く場 所(水族館・博物館etc・・・)、浮世絵、特撮ヒーロー、伝奇小説、南の海、そ して一 人息子とのおしゃべり、などなど。

「よみたい!ネット」に「横浜お散歩マニア」連載中 http://www.yomitai.net/