|
||||||
|
||||||
|
||||||
「久しぶり、元気だった? 私のこと覚えてる?」 「もちろん。私の教室について書いてくれたエッセイ、Nikiに送ってもらった よ。 だけど、残念ながら私、日本語読めないんだった」 「大丈夫。ものすごーく、誉めといたから」 なんて、軽く挨拶を交わす。もう一人、先について待っていてくれたのは、 今日 のもう一人の生徒、裕子さん。今日が初めての教室になるはずだったんだって。そして、忘れちゃいけないもう一人。ベビーカーの主は、吸い込まれそうなくらい透 き通った青い目をした生後5カ月の男の子。名前はジェイコブだって。 「ナイス・トウ・ミーチュー、ジェィゴフ」 しゃがみこんで目を合わせると、ニコニコって笑ってくれた。サラによれば 、 「おとなしくて全然手のかからない赤ちゃんなのよ」 なんだそうだ。なんと、うらやましいこと。サラの落ち着いた表情を見れば 、子育てをめいっぱい楽しんでいるのはよくわかる。 いつもの住宅地に入るゲートではなくて、海軍のオフィスやショップやその 他の施設があるゲートに向かう。これまでは、住人が一緒にいればフリーパスだった入り口で、一人ひとりの写
真付きのIDをチェックするようになった。名前と住 所を書かされて、免許証を見せて、ようやく入ることができた。やっぱりフェンス のこ ちらは戦争中なんだ。 お昼もだいぶ過ぎているせいか、レストランはガランとしている。見回せば 、レストランというより食堂と呼びたくなるような、拍子抜けするくらい殺風景な
店内だ。それに、なんかちょっと暗いよ、昼間なのに。まあ、ここも一応、軍隊の中の施設なわけだからなあ。質実剛健、ってことか……。 「テロが起きてから3カ月の間、根岸も、夫の勤める横須賀基地も、戦時下の厳戒 態勢が敷かれたの。この時期、ベースの住人は、勝手にフェンスの外に出ることも 禁じられていたのよ」 「えー、なんかそれって軍人なのか、囚人なのか……みたいな?」 「そうね。私ももうすぐ臨月という時期だったし、大変といえば大変だったかな」 「でも、サラ、アメリカに帰って出産したくなかった?」 「まさか。あのときのアメリカは、世界一危険な国のひとつだったのよ。それに、もう飛行機に安全に乗れる時期はとっくに過ぎていたから、帰るつもりはなか った の」 「不安じゃなかった?」 「初めての出産ということでは、やっぱり不安だった。だけど、ラッキーなことも あったのよ。ずっと出張ばかりしていた夫が、横須賀に滞在してキティホークを守る任務に就いたの。おかげで、久しぶりにずっと一緒にいられたし、生むときも一 緒についていてもらえたのよ」 「まあ、それなら不安なんか吹き飛んじゃうよね」 「それにね、テロについては、ここの住人はみんな、このフェンスの内側にいるの がいちばん安全だと思っていたはずよ。日本は中東のテロリストと直接関係な いし、 警察がこのフェンスのまわりをしっかり守ってくれているのもわかっていたから。 ここにいれば、守られてるって思えるのよ」 そうか、フェンスのこっち側にいた私たちが見えない影に怯えていたとき、 向こう側の住人達は意外にも冷静だった、ということかー。どちらかと言えば、戦
争してるのは向こう側なのにね。 「でもね、あの時期アメリカへ帰るのが嫌だった理由はそれだけじゃないの。 ニューヨークのような大都市では、アラブ系の人たちがひどい目に遭わされたりしてた のよ。警官が、襲われているアラブ人を助けないことだってあったんだって。 テロ も恐いけど、こういうのはもっと恐いことだと思うの」 うんうん、そうかもしれない。そうだよね。考えてみれば、どこかの国を「 悪」 と決めつけたり、ある人種や民族を迫害したりすることが、テロの原因になる
ことだったあるんだから。だけど、そういう話が米軍住宅の住人であるサラの口から出 たということに、驚きもしたし、実はちょっと感動もした。
もう一つ、ちょっと感動したこと。それは、この日レストランで食べたハン バーガーの味だった。ハンバーガーなんて、所詮ファーストフードじゃん、アメリカ料理じゃん。なんて舐めていたらびっくり。おいしかった。思わずあやまりたくなるくらい。
(おまけ) そんなわけで、今回はお料理教室はなかったのだけど、4月にサラが教室で教 えて いたメニュー、「ソーセージグレーブ & ビスケット」のレシピを紹介しま す。 ナカキタが実際に習ったものじゃないので、味や手順の解説は、なし。これを見 て作ってみた人、どんなだったか教えて。(んな、無責任な……ごめん) ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ --材料--(ビスケッツ) 約12コ分 無漂白の全粒粉2C
1. オーブンを220度に温めておく。 2. 粉、ベーキングパウダー、砂糖、塩をボウルで混ぜる。ショートニングを切り入 れ、ポロポロの状態になるまで混ぜ合わせる。 3. フォークを使って 生地がボウルから簡単に離れるくらいの硬さになるように牛 乳を混ぜる(牛乳が多すぎると生地がべたつく。少なすぎるとビスケットがぱ さぱさになる)。 4. 生地の表面に軽く小麦粉をまぶし、2、3度、30秒ほど捏ねる。 5. 1.5〜2センチくらいの厚さに生地をのばし、粉を打ちながら5センチ角に切 る。薄く油を敷いたホットクッキングシートの上に並べる。 6. 生地の上に溶かしバターをハケで塗る。 7. 12〜14分、表面がきつね色になるまでオーブンで焼く。焼き上がればホット クッキングシートからすぐにはがして、温かいうちにすすめる。 --材料--(グレービーソース) 輸入食品ショップで販売しているグレービーソース(ホワイト)もしくはホワ イトソースにセージ、塩、胡椒をしたものを使用。 --材料--(ソーセージ) 挽肉400g --作り方- 1. 挽肉、セージ、ローズマリー、タイムを混ぜ合わせ、ソーセージ状に形作 る。 2. 1とタマネギを大きめのフライパンで強めの中火で炒め、ソーセージが茶色 になっ たら油と肉汁を切る。 3. 2の肉汁大2を小麦粉に加え、軽くかき混ぜ、フライパンに戻して、弱めの 中火に かける。2、3分して生地がプツプツとあわだってきつね色に変わったら、牛 乳を加 えてトロッとなるまでかき混ぜ続ける。 4. 3にナツメグ、ウスターソース、ホットペッパーソース、塩、コショウを加 える。 5. 焼きたての温かいビスケットの上に4を載せる。 6. グレービーソースをかけてすすめる。 |
||||||
エッセイストの紹介 | ||||||
中北久美子 ナカキタクミコ | ||||||
(プロフィール) 中北久美子 ナカキタクミコ 名古屋の情報雑誌月刊「KELLY」編集から編集 デスクを経てフリーに。以後、雑誌・広告・社内報・官公庁の出版物・ゴース ト・ ラジオの構成などで企画・取材・執筆を担当。結婚後、神戸、金沢、富山と拠 点を 移しながらその土地の取材物を中心にライターを継続。今後は、女性のライフ スタ イルに関する記事を書いていきたいと考えている。 現在、横浜在住。好きなものは温泉、お散歩、お茶、古い建物、犬、60年代 のR &B、70年代のブリティッシュロック、80年代のスィートレゲエ、「館」のつ く場 所(水族館・博物館etc・・・)、浮世絵、特撮ヒーロー、伝奇小説、南の海、そ して一 人息子とのおしゃべり、などなど。 「よみたい!ネット」に「横浜お散歩マニア」連載中 http://www.yomitai.net/ |