Photo & Essay ばりー
こんにちは。ばりーです。そろそろ花粉の気配をちらほら感じる今日この頃 、極 度の花粉症のだんなさんを見るたびに、どうせ春の使者ならもっとステキなの がい いよ?と思うワタクシです。 まだまだ寒いけどそんな春の予兆(?)も感じるここ横浜から、フレッシュ なレ シピをエッセイと共にお届けします。


第十七回 おうちで作ると、美味しいよ

   
     



私たちが生まれた頃からは多分想像もつかないくらい、いろんなことが便利 にな ってる。大抵のものは作る必要なんかなくて、買いに行けば何とかなる。その ほう が早い。きれい。面倒くさくない。もしかしたら食べ物なんか、自分で作るよ り美 味しいかも。  ・・・・でもそれだけでいいのかな? だとしたら、何か味気ないぞ。


 毎日毎日仕事やら家事やら育児やら、いろいろ追い回されてふと気がつくと 、そ んなことを考えたりしてた今日この頃。答えは意外にも、お料理教室の中にあ った。


  空は雲ひとつない快晴。空気のキーンと冷えた真冬の正午、シェリーはなん とTシャツ姿で待ち合わせのデニーズ前に現れた。 彼女は秋に大学を卒業して、シアトルから家族の住む本牧にやってきたばか り。 茶色く長い髪に、底抜けの明るい笑顔が良く似合うお姉さん。

アメリカ人は本 当に 多種多様で、映画によく出てくるのはヨーロッパ系やアフリカ系。シェリーは 中近 東系アメリカ人だ。

「お部屋を暖かくしてたから、うっかり上着着てくるの忘れちゃったよ?」

とちょっぴり寒そうな彼女と共に、この日の生徒6人はぞろぞろとお宅へ向かう 。


  シェリー達の住む本牧の街も家も外国人向けに作られているのか日本のそれ と比 べて何もかもがゆったりしてる。例えば道路の隅にバスケットゴールがあつら えて あったり、電線が地中に埋まっていたり。風がするっと通過しやすい街。一言 でい うとそんな感じだ。


  そういえば、この家には、明るくてキュートで元気いっぱいの、妹のシーラ がい たはずなんだけど・・・

シーラは横浜にあるセントモールインターナショナルスクールへ通う小学生 。 インターナショナルスクールといえば外国人がいっぱい!というイメージは 昔の ことなのか、今は9割が日本人だそうだ。その学校でゴールデンウィークとク リスマス前に横浜に住む外国人の家族が集まって手作りの料理が振る舞われる、フ ード フェスタが催される。 シーラはそこで中心となって盛り上げるいわば学校のマスコット的存在の女 の子 なんだって。

「今日はシーラが体調を崩してるの。インフルエンザかな?私も日本に来る前 、シ アトルでかかって大変だったのよ」

なんとシーラは熱を出したそうで、ぐったりとリビングに横になってる。元 気い っぱい過ぎて、ママから叱られるほどだった彼女は今日、別人のように顔色が 悪い。 いかにも熱っぽそう。 だ、大丈夫・・?

そんなシーラを何度も

「I love you」

と気遣いながら、シェリーは手際よく料理の準備に取り掛かる。お互い初対 面で ちょっぴり緊張気味のみんなに話しかけ、私達の荷物を置く場所をも気遣い、 てき ぱきと準備を進めていく。お母さんのナンシーが心配なのか何度も様子を見に 来て、 時々手伝ったりもしてくれつつ、でも大丈夫、シェリーはとてもリラックスし て楽 しそう。


  今日彼女が教えてくれるのは、タコスと、チョコチップクッキー。しかもタ コス はトルティーヤから自分で作る、本格的なもの。黄色い箱に入ったコーンミールベ ースのカリカリタコシェルしか知らない私は、シェリーが詳細に書いてくれた レシ ピを事前に読んで、期待に胸わくわくしてたのだ。おもしろそう?!

まずはトルティーヤから。小麦粉、塩、ショートニングをボウルに入れて混 ぜ、 水を加えてこねる。シェリーはちょっぴり汗もにじませながら生地をこねつつ 、

「料理はエクササイズよ!」

なんてジョークも飛ばしてみたり。 トルティーヤの生地を寝かせてる間にクッキーの準備をする。このクッキー はシ ェリーのスペシャルだそうで、グラニュー糖とブラウンシュガーを混ぜて使う 。グ ラニュー糖だけで作ってもかまわないそうだけど、この割合がシェリーの好み だそ う。うん、自分で作ると、その辺のビミョーな好みも思い通りにできるもんね 。

次はタコスの具。
突然シェリーが

「泣きたい人!」

と希望者を募る。何だ何だ?なぜ料理をするのに、泣きたい人? 実は玉 ねぎを刻む係。それやるやる!コンタクトの私は玉ねぎを刻んでもあ んま り目にしみないのだ。刻んだ玉ねぎをフライパンで炒め、脂肪分を気にするア メリ カ人らしく、彼女が一生懸命探してくれたと言う赤身80%の挽肉をどかっ!と 加え、 さらに炒める。フライパンが重そうだけど、じゅうじゅう音を立てながら、次 第に 美味しそうな香りが立ち込める。

ここまでは、シェリーがジョークを交えつつ

「みんな静かだね!私の言ってること、分かる?大丈夫?」

なんてリラックスさせようとしてくれていたけども、まだまだ私を含めて生徒 のみ なさんは、エイゴ飛び交う台所に若干緊張気味。それが一気にほぐれたのは、 寝か せたトルティーヤの生地を焼き始めてからだ。

丸めて円盤状にした生地を指でのばしながら、ある程度の大きさの円形にす る。 さらに麺棒で伸ばして薄くなったものを、油を敷かないフライパンでひっくり 返し ながら焼いていく。6人は必然的にのばし係、麺棒係、フライパン係に分かれ て、 流れ作業で進んでいく。

「あれ?なかなか丸くならないよ」

「変な形になっちゃった?」

思い思いに生地をこねこねしながら、ゆっくりと笑顔が広がってく。シェリ ーは 全体の流れを気遣いつつも、フライパン係の指導に余念がない。何しろ火にか けた らぷぅ?っと膨らむ生地を、頻繁に表にしたり裏にしたりしなくちゃならない。 ちょ っとぽーっとしてると、あっという間に焦げてしまうのだ。

「はいっ、裏返して!あっ、そっちのやつも焦げちゃうよ!」

「うわ?ついてけないよ?」

3つのフライパンを同時に火にかけてるから、フライパン係は大忙しなのだ 。そ の様子に笑いもかさなって、さっきまでちょっと固かった空気がほぐれていく のが わかる。

ほかほかのトルティーヤが冷めないようにふきんで包んで、そろそろお料理 はフ ィニッシュに向かう。シェリーが前日から煮込んでくれていた豆はほっくり柔 らか く、煮汁の中に沈んでる。この煮汁で、あとでナンシーがスープを作って今晩 のお かずにするそうだ。煮汁まで美味しく使ってしまうなんて、すごい。これも家 で作 るから出来る技なのね。

程なくクッキーが焼きあがり、甘い香りが加わる。たくさん焼きあがったク ッキ ーの中からシェリーは

「これはパパとママの分ね」

と2個だけ取り出した。それはあまりにも自然で、多分彼女はいつもそうして きち んと家族を気遣っているんだろう。シーラは「いらない」と言ったらしい。

「いつもだったら絶対食べるのにね」

とシェリーは肩をすくめてた。大丈夫かなぁ、シーラ。

そして料理は完成!きちんとセッティングされ、キャンドルがともされたテ ーブ ルを囲んで、出来上がった料理をみんなでいただく。トルティーヤはほかほか でふ んわりやわらかいけど、でもしっかりタコスを包んでくれる。タコスはお肉の 旨み とトマト、玉ねぎ、ハラペーニョのPico de Galloがからまって、うん、これ、 すご い美味しい! クッキーもまたアツアツで、でもしっとりしていて、チョコレートの甘さと ほろ 苦さがからまって、いい感じ。口々に「おいしい?!」と言うみんなに、シェリ ーは にこにこ笑って、ホントに嬉しそうだった。

「ありがとう、家で作ると美味しいのよね。私は家で作るのが好き。みんなも 家に 帰って、今日の料理を作ってね」

そう言う彼女からすごく温かい雰囲気が生まれて、そこにいるみんなを包ん でく れてるみたいだった。


  私の知ってるアメリカ料理のレシピはカップ&スプーンでぱぱっと計量 して、 簡単! 手早い!なのが多かった。以前アメリカ人に「おふくろの味」を尋ねたら「キ ャン ベルの缶スープ」と答えてたし、レンジでチン!のごはんも確かアメリカ発祥 だし、 何でも合理的で早いことに価値観を見出すお国柄なのかなぁ?、なんて無責任に 思っ てた。でもシェリーに会ってお料理を習って、ごめんなさい、前言撤回。彼女 のよう に作ることを楽しんでいる人もちゃんといて、それを大事にしている人もいる のだ。 自分の狭ーい先入観が、ちょっとだけ恥ずかしい。


  トルティーヤもタコスもクッキーも、わざわざ買い物をして台所を汚してま た片付 けて、ってしなくても、レストランに行けば、お金を出せば、食べることはで きる。 でもそうしたら、みんなで生地をこねこねしたあの楽しさや、完成したときの 満足感、 できたてのアツアツはぜぇったい味わえない。みんなに楽しんでもらいたい、 おいし い!を感じてもらいたい、というシェリーの心遣いも、そこからあふれる温か で和や かな雰囲気も生まれてこなかった。だから彼女は、

「家で作るのが好き」

なのだろう。そうだよね。「忙しい」ばっかり言ってないで、せっかく習った チョコ チップクッキー、今度息子にも作ってあげよう。シェリーのくれた温かさ、今 度は私 が息子や他の人に、分けることができるかな?

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おまたせしました、 横浜発のフレッシュレシピ。みんなもぜひぜひ、おうちで作ってみてね! このレシピについて、もしわからないことがあったらメールください
(メルアド: cookeryballie@yahoo.co.jp
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本日のレシピ

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◆タコス(12個分)
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*タコスの皮にいれる基本になる具の作り方

<材料>

玉ねぎ 1/2個分(みじん切りにしておく)
サラダ油 大さじ1
牛挽肉 450g
にんにく 2かけ(つぶしておく)
クミン 
小さじ1/8 こしょう 
小さじ1/4 塩 
小さじ1/4 レタス (小さくちぎっておく)
チェダーチーズ(おろしておく)
トマト(粗みじんに刻んでおく)  適量

<作り方>

フライパンにサラダ油を熱し、にんにくと玉ねぎをいためる。

挽肉を加え、 色が 変わるまで炒める。かき混ぜながら弱火で15分蒸らし、余分な油を捨てる。

温めたタコシェルにスプーンで入れ、レタス、チーズ、トマトを彩りに添え る。


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◆ホームメイド・トルティーヤ(18枚分)
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*タコスの皮の作り方

<材料>

小麦粉 4カップ
塩 小さじ2
ショートニング または バター 1/3カップ
ぬるま湯 1+1/2カップ

<作り方>

大き目のボウルに小麦粉と塩をあわせて入れる。

ショートニングを切り込む よう に小麦粉に混ぜ、きめが粗くなるまで混ぜる。

ぬるま湯を加え、生地状になる まで 混ぜる。

生地をボウルの中で1分ほどこね、表面に軽く小麦粉(分量外)をふり 、 乾燥しないようにラップなどでおおって30分休ませる。

生地を18個の小さいボール状にわけ、両手で表面が滑らかになるまで転がし 、円 盤状に平らにのばす。

ラップで包み、1時間ほど寝かせる。麺棒で直径25cmくら いの 円形にのばす。

フライパンを熱し、生地をのせ10数え、裏返す。トルティーヤの両面 に狐色 の転 ができ、膨らむのがおさまるまで、10数えて裏返すことを繰り返す。 ふきんで包み、冷まして1つずつホイルでくるみ、使うときまでビニール袋に 入れ ておく。冷蔵庫で1週間程度、または冷凍庫で保存する。

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◆Pinto Beans

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*タコスの皮にまいて食べます。

<材料>
水 4カップ
ピントゥ豆(インゲン豆) 2カップ
玉ねぎ(みじん切り) 
1/2カップ サラダ油 
1/4カップ 塩、
クミンシード 各小さじ1
にんにく 2かけ(つぶしておく)
ベーコン 1かたまり(薄切りにしておく)

<作り方>

水、豆、玉ねぎを大き目の鍋に入れる。ふたをして火にかけ、煮立ったら2分 間ゆ で、火から下ろす。

1時間ほどそのままにしておく。豆がひたひたになるくらい に水 を加える。

残りの材料を混ぜ、火にかける。ふたをして煮詰める。弱火でゆっくりと煮 て、 時々かき混ぜ、豆が柔らかくなるまで約2時間ゆでる。(水気が足りなくなって きた ら、適宜加える)

豆を取り出し水気を切る。 

豆はふたをして冷蔵庫に入れて おけば 10日程度もつ。


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◆Pico De Gallo

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*ちょっと辛い、タコスの皮にまいて食べる具です。

<材料>
トマト 1個(粗みじんに刻んでおく)
玉ねぎ 1個(みじん切りにする)
コリアンダー(乾燥でも良い)
ハラペーニョ・ペッパー 1(半分に切っておく)
レモン 1個 半分に切っておく
塩 適量

<作り方>
トマト、玉ねぎ、コリアンダー、こしょうを混ぜ、レモンを絞る。好みで塩 を加 え、できあがり。


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◆Sherry's chocolate chip cookies(15枚分)

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*デザートのクッキー。やわらかくておいしいよ

<材料>
グラニュー糖 1/4カップ
バター 1/2カップ
ブラウンシュガー 3/4カップ
卵 1個
小麦粉 1+1/4カップ
ベーキングソーダ(重曹) 小さじ1/2
ベーキングパウダー 小さじ1/2
チョコレートチップ 1カップ <

作り方>

オーブンを170度に温めておく。大き目のボウルにバター、砂糖、卵を混ぜ合 わ せ、クリーム状に練る。

別のボウルに小麦粉、ベーキングパウダー、ベーキン グ ソーダを混ぜ合わせる。

バターに小麦粉を少しずつ入れ、混ぜ合わせる。

チョ コレ ートチップを加えてさらに混ぜる。

指で生地をゴルフボール大に取り、5cmほど離してクッキーシートの上にの せる。 端が薄茶色に色づくまで9?10分程度焼く。

#トルティーヤ、クッキーに使われている小麦粉(Flour)は、アメリカでは中力 粉 をさします。日本では手に入りにくいので、薄力粉と強力粉を半量 ずつ混ぜる か、 薄力粉のみで作ります。

#ベーキングソーダがなければ、ベーキングパウダーを同じ量+αして加えます 。

#1カップ=約240ccですが、日本の計量カップ(200cc)を使っても、ほぼ同じ よう に出来ます。



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・・・後日。チョコチップクッキー、作りました。でもレシピの小麦粉「1+1/4 」を 「11/4(=約3)」と読み間違えて、できたクッキーはシェリーのそれには程遠 く、 カチカチに硬い!あ?やっちゃった・・・・ でも食べられなくはないので息子 と一 緒に食べてたら、「ママ、おいちいねぇ?」とそれはそれで満足だったよう。息 子を 癒すつもりがすっかり私が癒されて、本末転倒だけどこれはこれで良かったの かな。 トホホ・・・次は成功させるぞ。

   

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エッセイストの紹介
ばりー
(プロフィール)
ばりー


明太子ととんこつラーメンを愛するコテコテの博多っ子ながら、祖母が住んで いて 小さい頃から慣れ親しみ、醤油とんこつラーメンな横浜は、第二の故郷のよう に思 っている。だんなさんと息子、料理とカメラと旅行と音楽をこよなく愛し、愛 しつ いでに
「おうちで作る世界のごはん Cookery Ballie ( http://homepage1.nifty.com/ballie/index.html )」
を主催。 ママ・奥さん・看護師・学生の4つの顔を使い分け、追われながらも日々力 走中。 座右の銘は「人生 give & given」、「できると思えば何でもできるし、できな いと 思えば何にもできない」。