料理映画:英国総督 最後の家 

◆英国総督 最後の家


◆映画:英国総督 最後の家


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8月11日(土・祝)から、新宿武蔵野館ほかで全国公開
http://eikokusotoku.jp/

text/キヌガサマサヨシ(夏休み計画)

 


<映画紹介>
カレー好きなら知っておきたい
インドの独立の悲しい歴史

 

子どもの頃から頻繁にカレーを食べているのに、そのカレーの発祥の地であるインドのことはあまり知らないかも、と思いませんか。知っていることといえば、毎日カレーを食べてるとか、頭にターバンを巻いているとか、サリーを着ているとか、3桁の掛け算が暗算でできるらしいとか、ITに強いとか、踊るの好きでボリウッド映画のように踊りまくるとか、バターチキンが美味しいとか、ガンジス河で沐浴するとか、そんな程度ではないでしょうか。まさに僕がそうでした。

 

 

 

映画『英国総督 最後の家』は、インドにおける重要な出来事を描いています。インドを理解するために、知っておきたいこと。それは独立のことです。ご存知のようにインドはかつてイギリスの植民地でした。多くの人がそのことは知っているのに、いつ独立したのかは、意外と知られていません。この映画では、当時インドを統治していたイギリスの総督を通して、インドが独立するまでの動乱の半年間を描いています。

 

 

イギリスによるインドの植民地化が始まったのは、1757年のことでした。もともとフランスの植民地となっていたベンガル地方に攻め入って陥落したの皮切りに、その後いくつかの戦いを経て、1858年からイギリスがインド全域を本格的に支配するようになりました。そして、イギリスは地域によってばらばらだったインドをまとめてイギリス領インド帝国を作り、イギリス国王がインド皇帝を兼ねるという形で89年間に渡って統治しました。さらに、イギリスの東インド会社が実効支配していた時期を含めると、植民地時代は約200年間にも及びました。

インドがそうしたイギリスの支配から独立を果たしたのは、第二次世界大戦から2年後の1947年の8月でした。しかし、独立は簡単なものではありませんでした。

 

 

以前からガンジーらによる独立運動はあったものの、この独立の真の理由はイギリスの都合でした。イギリスは大戦で戦勝国とはなったものの、激しい戦いで消耗し、疲弊していたために、インドの統治を継続することができなくなっていたのでした。インドはイギリスの10倍以上もの広大な面積で、それを統治するには相当な兵力が必要だったのでしょう。そうしたイギリスの事情を受けての独立なので、イギリスとインドの間で大きなもめごとがあったわけではないようですが、問題はインド国内の宗教対立でした。

 

 

 

イギリスはインドの国民が連帯して独立運動が激化することがないよう、ヒンズー教とイスラム教の対立を統治に利用してきました。そのため、表面的には共存しながらも、少数派として辛酸を舐めさせられていたイスラム教徒の中には、ヒンズー教徒に対して憎しみを持つ者も多くいました。そして、イギリスの抑制がなくなると知り、力づくで領土を確保しようとするイスラム教徒たちが、各地で暴動を起こしていました。

 

 

 

主権移譲のために総督としてイギリスから派遣されたマウントパッテン卿は、イスラム教徒の分離独立を認めろとムスリム連盟から迫られ、無差別大量殺人や略奪を目の当たりにして、どうするべきか悩みました。宮殿のような総督官邸には500人もの使用人がいましたが、その中でもヒンズー教徒とイスラム教徒がぶつかり合って、コントロールが効かなくなっていました。

 

 

 

ガンジーたちはイギリス統治時代のままの統一インドでの独立を望みましたが、イギリス政府にはそれを許さない企みがあったのでした。それを知らされていなかったマウントパッテン卿は、現実を知って戸惑い、苦悩しますが、どうすることもできず、イスラム教徒の分離独立を認めると発表しました。

 

 

 

そうしてインドの一部の、イスラム教徒の住民が多い地域を分割させて誕生したのがパキスタンでした。1947年までパキスタンという国はなかったんですね。僕はそれもこの映画で初めて知りました。

 


そのパキスタンになった地域に住んでいたヒンズー教徒やシク教徒は、インド側へと移動を強いられました。この映画を撮った監督は、シク教徒のインド系イギリス人の女性。彼女の祖父母は、当時の騒動で家財を奪われ、悲惨な混乱に巻き込まれた被害者だったのでした。逆にインド側からパキスタン側へと移った人々もいて、この民族大移動は1400万人もの規模であったと言われています。

 

 

映画の中ではやんわりとしか触れられていませんが、じつはイギリスには企みがありました。それは、主権を譲渡しても自国が有利になるようにするものでした。しかし、その画策が世界に知られて非難されないよう、宗教対立による紛争を利用し、イギリスはその解決のために仕方なく分離を認めた、という口実を作りたかったようです。監督自身も、この映画のために調査を始めるまで、「マウントパッテン卿はインドを分離せざるを得なかったし、インドを分離させた責任はインド人にある」と考えていた、と語っています。

 

 

ちなみに、シク教は16世紀になって生まれた宗教で、ヒンズー教とイスラム教を融合させたものだとも言われています。インド全体での比率ではごく少数(2011年の調査では1.7%)ですが、ターバンを巻いているのは、じつはこのシク教徒だけ。映画では官邸の使用人は宗教に関わらずターバンを巻いていますが、これはイギリスが制服として着用させたものであったと思われます。

 

 

また、映画とはまったく関係はありませんが、パキスタンはインドからの分離独立後にも度々紛争があり、1971年にはパキスタンの東側が分離独立してバングラディシュが建国されました。恥ずかしながら、これもまったく知りませんでした。インドやその周辺のことって、高校の世界史でもほとんど習った記憶がないし、知らないことばかりな気がします。

これも余談ですが、インドの紙幣には17の異なる言語が書かれています。それは代表的なもので、実際には2013年の時点でも870ほどの言語が使われています。インドには「15マイルごとに方言が変わり、25マイルごとにカレーの味が変わり、100マイルごとに言葉が変わる」という諺があるほどで、イギリスが統治していた時代には200以上の言語があったのではないかと思われます。200年間も支配していながらそれを統一させなかったのは、大規模な暴動を防ぐためのイギリスの策だったとも言われています。

 

 

 

南インド料理の店で「バターチキンはないの?」「ナンもないの?」「インド料理とか言って、この店、ニセモノじゃね」なんて言ってる場合ではないのです。もちろん、誰にだって知らないことがあるのは当然で、知らないのは悪いことではないですが、インドに関しては、バターチキンは北部の料理だとか、南インドではナンを食べる習慣がないということ以前に、こんな悲劇があったことは知っておいた方がいいんじゃないか、と思います。残念ながら料理の話は一切登場しませんが、インド料理に興味のある方には、ぜひ観て欲しい作品です。

 

 

 

監督:グリンダ・チャーダ(『ベッカムに恋して』2002年ほか)
出演:ヒュー・ボネヴィル(『パディントン2』2017年ほか)、ジリアン・アンダーソン(TVドラマ『X-ファイル』ほか)、マニーシュ・ダヤール(『マダム・マロリーと魔法のスパイス』2014年ほか)、フマー・クレイシー(『DEAD ISHQIYA』2014年ほか)
原題:  Viceroy's House
製作:2017年    イギリス 106分
配給:キノフィルムズ

© PATHE PRODUCTIONS LIMITED, RELIANCE BIG ENTERTAINMENT(US) INC., BRITISH BROADCASTING CORPORATION, THE BRITISH FILM INSTITUTE AND BEND IT FILMS LIMITED, 2016



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