今年の桜は足が早かったね。ナカキタとしては、ソメイヨシノよりむしろ
山桜やしだれ桜のような、遅咲きの桜が咲いたころ、しみじみと春を実感したんだけど、皆さんはいかが?
 Nikiは、先月の末、本牧某所でスプリングパーティを開いたんです。
 満開の桜の木の下、日頃素敵なお料理を教えてくださる先生たちを、この日は生徒たちが、持ち寄った和食のお弁当でもてなそうという、キッチンスクールはじめての試みでした。
 常連さんも、一見さんも、お久しぶりさんも、手料理を持って、本牧に集まってくれました。いつもはそれぞれ個別 に教室を開いていて、なかなか知り合う機会のない先生同士も、楽しく談笑。残念ながら、ナカキタは出席できなかったけど、アットホームで、とっても素敵な集まりだったって。
 お金を出してお料理を習うだけじゃなくて、その気になれば、友達として招き、招かれる関係を築くことだってできる。それがNikiの教室のもう一つの魅力だったりするわけです。


 さて今回は、地球の真裏にありながら、ある意味もっとも馴染み深いラテンの国、ペルーから来たソフィアの教室。だけど、ペルーの人々が豊かな海と、おいしい魚料理をこよなく愛していること、知ってました?


第八回 サカナサカナサカナ、ソフィアのおさかな料理 フロム・ペルー

 
     



 なんか、ほのぼのと幸せな書き出しで始まった今回のレポート。実は、ちょっとブルーーーゥな報告をしなくてはならないのだ。
 実はね、最近Nikiユs Kitchenがいろんなところで取り上げられて、少しずつ皆さんに知ってもらえるようになってきて、それは嬉しいことなんだけど、たまーにだけど、ルールを守ってくれない人がいるんだ。このころ、当日キャンセルが相次いでいて、それがNikiを悩ましていたのだ。
 教室は、たいてい3〜4人くらいの少人数で行う。だから、当日になって1人、2人とキャンセルが入ると、その分、先生のダメージも大きいのだ。そんなことが続いて、Nikiがちょっと落ち込んでいたその矢先、それは起こった。


 その日、ナカキタは待ち合わせの本牧デニーズで、ソフィア先生と他の生徒さんたちを待っていた。春休みなので、一人息子のU坊(6歳)も一緒だ。聞けば、ソフィア先生にも同い年の男の子がいるとのこと。おおお、一緒に遊ばせられる! ペルー人の友達がいる小学一年生って、なんか、異文化コミュニケーション? と喜ぶアホ親、それはワタシ。


 少し肌寒い3月半ばの土曜日だった。でも、道を隔てた公園の桜はほぼ満開。お昼時なので、シートを敷いてお弁当を食べている人たちもいる。
 ほどなく、先生が車でやってきた。互いに自己紹介した後、息子にほぼ無理矢理
「ナイスチュミーチュ」
 と言わせるアホ親、それもワタシ。ソフィア先生は笑って、
「How old are you?」
 なんて聞いてくれる。ちょっとスペインなまりの英語がチャーミングだ。それに対して、
「ろくさい!」
 思いっきり日本語で答えるU坊。うちの子と同じだわ、なんて話でひとしきり盛り上がる。そこまではよかった。


  「朝、電話があって生徒さんの1人が、急に熱がでて来られなくなったんですって」
 ということで、今日の生徒は2人だということを知った。
 ところが、待てど暮らせどその1人が来ない。おそらく40分くらいは待っただろうか。結局、彼女は現れなかった。これにはソフィア先生も、唖然。
 もちろん、ナカキタも。思いがけない事態にとまどうソフィア先生を見ていると、申し訳ない気持ちでいっぱいになってしまった。こんなことは初めてだと、なぜか弁解してしまう。先生は、しばらく電話でNikiと話した後、
「もし、あなたがやりにくいというのなら、今回はキャンセルしてもいいのよ」
 と、言った。ナカキタとしてはむしろ、たった1人の生徒のために教室を開いてもらって、申し訳ないという気持ちでいっぱいだ。だから、
「ソフィアさえよかったら、私は習いたいんだけど、なんだか悪いような気がして……」
「そんなこと、全然気にすることないの。ナカキタさんのせいではないし。あなたさえよければ、ぜひ来てほしいわ。残念ながら、今日はうちの子どもは出かけているけど、おもちゃもビデオもあるわよ……英語だけど」
 さすがに落ち込みは隠せないソフィア先生だけど、ナカキタにはつとめて明るく接してくれる。大人だなあ。いい人だなあ。
 隣で耳ざとく「ビデオ」という単語を聞きつけた息子の目がキラリと光る。
「戦いモノのビデオあるか、聞いてみて」


 そんなわけで、最初からケチが付いてしまった今日のソフィア教室。結局、生徒はナカキタ1人、ということでスタートだ。


 前振りが長くなってしまった。
 ソフィア先生お家は、本牧の中でも、瀟洒な一軒家が立ち並ぶ一角にあった。車を降りるとき、たくさん買い込んだ今日の材料を重そうに車から降ろす先生の姿を見て、なんだかまた胸が痛んだ。だけど、せっかくのお料理教室なんだ。マンツーマンで教えてもらえるのも何かのご縁。楽しく行きましょう!


 だいぶ時間が押しているので、講義は超特急で進む。それこそ、無駄 話する余裕もないほど。3時には、プレスクールに行っている下の息子さんの、お迎えがあるのだ。そのあたりの大変さは、同い年の子どもを持つ親として、ナカキタにもよくわかる。お母さんにとって、子どもが幼稚園入園から学校へ入るまでの間が、もしかしたらいちばん時間に追われる生活を強いられているのかも。


 今日のメインディッシュは、赤魚のムニエルに、トマトベースのソースをかけた、いかにもラテン系な逸品だ。オリーブオイルとニンニク、トマトという、イタリア料理の三大素材を使ったソースは、やっぱり地中海にルーツを持ってるってことだろうか。
 これまで、いろんな国の料理を体験してきて、つくづく感じるのは、イタリアンの影響力だ。イタリア料理を、そのままわが家の味にしている主婦は、世界中にいるだろう。みんなそれぞれ、イタリアンをベースに、自分の故郷流に少しアレンジしているのも面 白い。


 今回のメインディッシュの場合、そこに南米らしい個性を加えているのが、おそらくチリペッパーやクミンといった個性の強い香辛料と、ポテトだろう。
 南米では、ものすごくたくさんの種類のイモが手に入るんだそうだ。
 そして、何と言っても魚。
 ペルーというと、どうしてもアンデスなど、高い山々のイメージが強いけど、実は素晴らしい漁場にめぐまれた、海産国家でもあるわけさ。それで、ペルーの主婦たちは、お魚料理のレパートリーをいっぱい持っているんだって。


  「ペルーの料理は、新鮮な魚介類を丸ごと使うものが多いわね。その点では、日本の人たちの食生活に、とても親近感を持っているのよ」  と、ソフィア先生。なるほど。だから今回の料理でも、赤魚を丸ごと買ってきて、メインディッシュで使わないアラは、スープのストックに使っているんだ。先生は、今日、朝から中華街近くの魚屋まで、魚を仕入れに出かけたんだって。すごい!
 それにしても、これって、今の日本人の食生活じゃなくて、30年くらい前の日本人だよね、どう考えても。……と、魚をさばくのが苦手なナカキタは、「親近感」という言葉にちょっと恥じ入ってしまう。  


  出来上がったお料理は、メインもスープもデザートも、当然ながら、日本の食生活とずいぶん違う。魚のアラで取ったダシは、和食では味噌か醤油を合わせるところ、ニンニクとタマネギとトマトのスープになった。食欲をそそる香りとコクのある味。おいしい。
 このスープには、お米も入っている。少量なので、リゾットというよりは一種の浮き実のように使われているのが面 白い。
 こうしてみると、素材は日常的なものばかりなのに、その使い方が和食とは正反対の方向へ走っている。そんな印象のペルー料理だった。


 本当は、ソフィア先生とキッチンの中でもっとおしゃべりしたかったんだけど。今回は、タイムアップ。隣の部屋で、不気味なくらい静かに「パワーレンジャー」に見入っていたU坊も、キッチンに戻ってきた。感想を一言。
「アメリカの戦いモノが見られてよかった」


 アクシデントにもめげず、温かい気配りでたった1人の生徒に対してくれたソフィア先生に、感謝。
 次はもう少し立ち入った話もしようね。子どももご対面させようね。そんな約束を交わして、ナカキタ親子は本牧の家を後にした。


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本日のレシピ

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◆エスカベチェ デ ペスカド(赤魚のメインディッシュ)
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三枚におろした魚一匹分(アタマの部分はスープストックに使う) 
塩小1/2 
コショウ小1/2 
クミン小1/4 
オリーブオイル大2 
タマネギ2コ 
トマト2コ 
ニンニク3片 
タマゴ3コ 
酢大2 
レモン1/2コ 
パセリのみじん切り大2 
サフラン小1/4 
ブラックオリーブ1/2C 
小麦粉大2 
ドライディル小1/2 
チリペッパー小1/2 

(付け合わせ)
レタス適宜 
ジャガイモ5〜6コ


1.タマネギ、トマトは角切り。パセリはみじん切り。ニンニクはすり下ろしておく。
 
2.タマゴは茹でてサイコロ状に切る。ジャガイモも茹でて、2〜3センチの厚みに切っておく。

3.魚の薄皮を剥いで、2.5センチ角くらいに切る。塩ひとつまみ、コショウ、ニンニク、クミン、小麦粉をまぶす。

4.大きめの、焦げ付かないシチュー鍋にオリーブオイルを敷いて強めの中火で温め、3を身を下にして入れ、約5分焼く。裏返して、身全体が白くなり、フォークでついてみてパラッとほぐれる程度になったら、皿に移す。

5.魚を取りだした鍋に、中火でオリーブオイル少々(分量外)を温め、タマネギ、トマト、パセリ、酢、レモン、ニンニク、サフラン、ドライディルとチリペッパーを加え、煮込む。

6.皿にレタスをたっぶり敷いて、真ん中に4を載せる。まわりを茹でジャガイモで飾り、上から5をかける。


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◆チュペ デ カマロネス(ペルー風エビのスープ)

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(材料) 
殻つきエビ 約450g 
魚のアタマ2匹分 
米1/2C 
エバミルク1/2缶 
カボチャ細切り1/2C 
うずらタマゴ1パック 
パルメザンチーズ1/2C 
ジャガイモ中2コ 
タマネギのみじん切り1/2C 
ニンニク3片 
サフラン少々 
トマト1コ 
オレガノ小1/2 
パセリ小1/2 
塩小2くらい 
コショウ小1/2 
コーン油大3 
ドライディル小1/2 
コーン1/2C 
溶き卵1コ分 
チリペッパー小1/2

1.メインディッシュの魚から取ったアラを、中サイズの鍋で90分くらいじっくり茹でておく。

2.エビはアタマをつけたまま、少し切り込みを入れてミソを取り出し、中を洗っておく。

3.タマネギとニンニクをフードプロセッサーにかけ細かいみじん切り状にする。ジャガイモは1センチくらいの輪切りにしておく。

4.うずらタマゴを茹でる。沸騰後、5分たったら鍋から出す。

5.1からアラを取り出し、2のエビを入れて15分煮込む。 このとき、トマトも丸ごと一緒に入れて、皮にしわが入ったらすぐに取り出し、湯むきしてからサイコロ状に切る。

6.15分後、スープを火から下ろし、エビを取り出して冷ます。

7.フライパンに3のタマネギとニンニク、5のトマトを会わせて、ドライディルとコショウ、サフラン、オレガノを加えて煮立たせる。

8.6のスープからお玉に2杯分取って7に入れ、煮詰める。

9.スープとソースが馴染んできたら、6のスープ鍋に8を入れ、米を加える。

10.5分経ったらジャガイモとカボチャを加え、約20分煮込む。

11.溶き卵、エバミルク、パルメザンチーズ、チリペッパー、取り出しておいたエビと、うずらタマゴを加える。


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◆チョコレートプディング
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(材料)
ココア大3 
砂糖大41/2 
バニラエッセンス小1/2 
牛乳1000cc 
コーンスターチ大3 
タマゴ1コ(卵黄と卵白に分ける)

1.鍋に砂糖とココア、牛乳を入れて中火にかける。牛乳は15ccくらい、砂糖は大1/2ほど残しておく。

2.残りの牛乳で、コーンスターチを溶き、1が煮立ったら少しずつ入れる。

3.1分たったら火から下ろし、卵黄を混ぜ入れる。

4.メレンゲを作る。卵白を泡たてて、角が立つようになったら 残りの砂糖を加える。

5.3のあら熱が取れたら器に盛りつけ、4を上に載せる。

   

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エッセイストの紹介
中北久美子 ナカキタクミコ
(プロフィール)
中北久美子 

ナカキタクミコ 名古屋の情報雑誌月刊「KELLY」編集から編集 デスクを経てフリーに。以後、雑誌・広告・社内報・官公庁の出版物・ゴース ト・ ラジオの構成などで企画・取材・執筆を担当。結婚後、神戸、金沢、富山と拠 点を 移しながらその土地の取材物を中心にライターを継続。今後は、女性のライフ スタ イルに関する記事を書いていきたいと考えている。 現在、横浜在住。好きなものは温泉、お散歩、お茶、古い建物、犬、60年代 のR &B、70年代のブリティッシュロック、80年代のスィートレゲエ、「館」のつ く場 所(水族館・博物館etc・・・)、浮世絵、特撮ヒーロー、伝奇小説、南の海、そ して一 人息子とのおしゃべり、などなど。

「よみたい!ネット」に「横浜お散歩マニア」連載中 http://www.yomitai.net/